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クソ狐とシフト

麗彪(よしとら)side】 「俺の顔見て笑い出すなんて、一体何吹き込んだんです?」 ルームサービスで晩飯を済ませ、笑い疲れたのか一緒に風呂に入ったら寝てしまった美月をベッドに寝かせて戻ると、駿河(するが)が怪訝そうに聞いてきた。 説明すんのは面倒くせぇな。 「ユニットバスの使い方について」 「はあ?・・・まあ、美月くんが笑ってくれるなら何でもいいですけど・・・ちょっと情緒不安定になってるかもしれませんね。美月くん、新名(にいな)の事は好意的に見てますけど、攫われそうになった事はやっぱり恐かったんじゃないですか?」 そうだろうな。 攫われそうになったと思ってないだろうが、時任が戻った時に泣いていたんなら、ヤツに連れて行かれそうになったのが恐かったはずだ。 未遂だったとは言え、マンションを出てからずっと俺から離れないのを見ると、トラウマになってるのかもしれない。 うちに来てすぐの頃は、やむを得ず独りで部屋に残して仕事に行く事もあったし、片桐(かたぎり)とカンナも使うようになってからは部屋に独りにしておく事がなくなった。 だが時任と2人でホテルへ向かわせようとして泣かれたのを見ると、俺がいないとだめになったのかもしれない。 美月が俺を求めてくれるのは嬉し過ぎるんだが、困ったな。 裏も表も、仕事場に連れて行く訳にはいかねぇし・・・。 「よしとらさんっ!」 「美月?起きちゃったのか」 寝室から飛び出して来た美月が俺に抱き付いた。 可愛いかよ・・・。 いや、喜んでる場合じゃないな。 「ちゃんといるぞ。勝手にいなくなったりしねぇから」 「・・・ぅん」 ああ、泣いてるな、これ。 向かい合わせで膝上に座らせて、頭を撫でてやりながら宥める。 暫くすると落ち着いて、小さな寝息が聞こえてきた。 「麗彪さんは美月くんから離れない方が良さそうですね」 「そーだな。リモートでやれる仕事だけ回して、他はお前と時任で何とかしてくれ」 「美月くんが落ち着くまでは・・・何とかします」 ダイニングの方で黙って座ってた時任が立ち上がり、リビングの方に来た。 こいつ、自分のせいだとか思ってんな。 「時任」 「すいませ・・・」 「お前のせいじゃねぇって。ヤツがここまでやるって想定出来なかった俺が悪い」 「俺がヤツを消します」 「やめとけ」 (はらわた)が煮え()り返ったが、未遂だ。 怒りに任せて片桐に頼もうかとも思ったが、親父が使ってるヤツだし簡単にはいかないだろう。 美月に実害があれば即処すんだが、害させる事自体赦さねぇ。 「クソ狐が何とかなるまでは、絶対に美月を独りにすんな。マンションに戻ってからも暫くは俺が側にいられるようにして、落ち着いてからも2人以上は側にいる様にしろ」 「シフト組みます・・・」 駿河が頭を抱えながら言った。 シフト組むにも使える頭数(バイト)が少ない。 俺が動けないんじゃ、親父にも話すしかねぇな。 借りを作るのは(しゃく)(さわ)るが、背に腹はかえられない。 呼ぶとクソ狐が付いて来やがるし、後で電話するか・・・。
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