101 / 146
⭐︎100話到達記念⭐︎黒トラ猫と白い小鳥
*** 動物擬人化パロディ ***
【麗彪 side】
俺はこの榊 家で飼われている黒トラ猫だ。
飼い主の親父は麗彪と名付けたが、いつもよっちゃんと呼ばれてイラッとしている。
今、親父が仕事に出かけた。
よし、あの可愛い小鳥に逢いに行こう。
「美月 、元気か?」
「あ、麗彪さん」
美月は白い翼が綺麗な小鳥。
銀の鳥籠に入れられて榊家 にやって来た。
俺は美月に一目惚れして、毎日逢いに来ている。
「親父に虐められたりしてないか?」
「ふふ、ぱぱはぼくの事、いじめたりしないよ?」
美月は親父の事をぱぱと呼ぶ。
親父なんかに懐かなくていいんだぞ。
俺の方がずっと美月の事が好きだし、大事にするのに。
「クソ狐は来なかったか?」
「真叶 さん?来たよ。ぶどうくれたの。おいしかった」
クソ狐の真叶は、よくうちの庭に侵入してくる。
あいつは美月を食べるつもりらしく、鳥籠を壊そうとしていた所を引っ掻いて追い出した事があった。
そんなヤツからぶどうを貰った?
美月を太らせて美味しく食べようとしてんのか?
次に会ったら喉笛に噛み付いて息の根止めてやる・・・。
「クソ狐から貰ったもんは食べちゃだめだ。俺がもっと美味 いもん持って来てやるから」
「ふふ、わかった」
本当にわかってんのか心配だ。
美月は優しいから、クソ狐がまた何か持って来たら、礼を言って受け取るんだろう・・・。
自分が狙われてるって分かってないんだろうな。
俺が護ってやらねぇと。
無意識に、鳥籠が置いてある部屋の畳で爪を研いでしまう。
ちゃんと親父が用意した爪研ぎはあるんだが、畳ばりばりすんのはまた違った楽しみがある。
「麗彪さん、そんなとこで爪研ぎしたら、またぱぱに怒られちゃうよ?」
「親父が恐くて飼い猫なんて出来るか。それより美月、籠の鍵見つけたんだ。親父の部屋から盗んで来た。自由にしてやるからな」
小鳥は空を飛ぶものだ。
こんな籠に閉じ込めていい訳ない。
それに、こんな鳥籠で独りでいるより、俺と一緒に俺のベッドで寝る方が暖かいはずだ。
俺の部屋に連れて行って、毎日毛繕いしてやりたい。
「ぼく・・・このままでもいいよ」
そう言って優しく微笑み、美月は籠の隙間から手を伸ばして俺の尻尾を触りたがった。
美月になら、尻尾も耳も好きなだけ触らせてやる。
「良くない。外に出た方が楽しいぞ。危ないヤツらからは俺が護ってやるから」
「・・・うん」
うんって言ってくれたのに、白い翼が震えてる。
何が不安なんだ?
何が恐いんだ?
俺が全部やっつけてやるから。
「よし、開いたぞ。おいで美月」
躊躇なく鍵を外し、籠を開けた。
差し伸べた手を美月が取ってくれるのを待つ。
この手を掴んでくれたら、絶対に放さない。
俺が美月を護る。
誰にも渡さない。
一生大事にする。
だから、手を取ってくれ・・・。
「麗彪さん、あのね・・・ぼく・・・・・・飛べないんだ・・・」
寂しそうに笑って、美月が言った。
「・・・え?・・・怪我してるのか!?」
さっき翼を震わせていたのは、痛かったからなのか?
何でもっと早く気付かなかったんだ。
親父は何してやがる、早く帰って美月を獣医に連れて行くべきだろ!
「ううん、羽切り って、飛べなくなるよおにされてるの」
美月がそおっと翼を広げた。
広げた翼をちゃんと見るのは初めてだ。
翼の先、長いはずの風切羽がばっさりと切り落とされている。
それを見た瞬間、心臓を突き刺された様な、腸 を抉られた様な、喉を締め上げられた様な苦しみに襲われた。
「親父が・・・やったのか?」
殺してやる・・・。
「ち、違うよ!ぱぱじゃないよ!ここに来る前に、切られたの・・・」
美月の綺麗な白い翼を傷付けたヤツがいる。
殺してやるころしてやるコロシテヤル・・・。
俺は怒りで暴れ出したいのを抑え、息を吐き、もう一度手を伸ばした。
「飛べなくても、俺と一緒に行こう。こんな鳥籠より俺のベッドの方が暖かいし、歩くの苦手なら俺が抱っこしてやる。もう絶対に美月を傷付けさせたりしないから・・・な?」
俺が護るから、世界で一番大事にするから、俺の手を取ってくれ・・・!
「麗彪さ・・・」
「こぉら!だめじゃないかよっちゃん!」
美月が俺の手を取ろうとしてくれていたのに、間の悪過ぎる事に親父が帰って来てしまった。
すかさず美月を抱き寄せ、飼い主に向かってフ───ッと威嚇する。
「あの、ぱぱ、麗彪さんは悪くないよっ、あの、ぼくが、えっと・・・」
俺の腕の中で、美月が慌てて言い訳しようとしている。
俺が勝手に籠を開けて美月を手に入れようとしたのに、俺を庇ってくれようとしてるんだ。
こんなに優しい美月を傷付けたヤツがいるなんて・・・殺すだけじゃ気が済まない・・・。
「あのねよっちゃん、みっちゃんはまだ上手に飛べないから、籠から出たら危ないんだよ。羽が生え変わるまでは飛ぼうとしちゃだめなんだ」
「美月は俺が面倒見る!だから・・・羽が・・・え、生え変わる、のか?」
美月の翼は傷付けられて、もう飛べないんだと思っていたのに。
生え変わる・・・だと・・・?
「そうだよ、ちゃんと生え変わるから。そしたらお外で遊んでもいいよ。ああでも、よっちゃんがちゃんと手を繋いで、みっちゃんが危なくない様にするなら、籠の外で一緒にいてもいいか。その方がみっちゃんも寂しくないよね」
それから、美月は羽が全部綺麗に生え変わるまでは絶対に飛ばない、俺は美月の手を放さずしっかり面倒を見るという約束で、美月は鳥籠から出て俺の部屋で暮らす事になった。
「んふ・・・っ、麗彪さん、くすぐったぃ・・・っ」
「早く生え変わるように、丁寧に毛繕いしてやるからな。ほら、大人しくしろ」
「んっ、そこ、羽じゃな・・・ぁんっ」
甘くて可愛い小鳥の美月。
俺は、美月の羽が生え変わって飛べる様になった時、この腕の中から出してやれるだろうか。
ロード中
ともだちにシェアしよう!