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⭐︎100話到達記念⭐︎黒トラ猫と白い小鳥

*** 動物擬人化パロディ *** 【麗彪(よしとら)side】 俺はこの(さかき)家で飼われている黒トラ猫だ。 飼い主の親父は麗彪と名付けたが、いつもよっちゃんと呼ばれてイラッとしている。 今、親父が仕事に出かけた。 よし、あの可愛い小鳥に逢いに行こう。 「美月(みつき)、元気か?」 「あ、麗彪さん」 美月は白い翼が綺麗な小鳥。 銀の鳥籠に入れられて榊家(ここ)にやって来た。 俺は美月に一目惚れして、毎日逢いに来ている。 「親父に虐められたりしてないか?」 「ふふ、ぱぱはぼくの事、いじめたりしないよ?」 美月は親父の事をぱぱと呼ぶ。 親父なんかに懐かなくていいんだぞ。 俺の方がずっと美月の事が好きだし、大事にするのに。 「クソ狐は来なかったか?」 「真叶(まどか)さん?来たよ。ぶどうくれたの。おいしかった」 クソ狐の真叶は、よくうちの庭に侵入してくる。 あいつは美月を食べるつもりらしく、鳥籠を壊そうとしていた所を引っ掻いて追い出した事があった。 そんなヤツからぶどうを貰った? 美月を太らせて美味しく食べようとしてんのか? 次に会ったら喉笛に噛み付いて息の根止めてやる・・・。 「クソ狐から貰ったもんは食べちゃだめだ。俺がもっと美味(うま)いもん持って来てやるから」 「ふふ、わかった」 本当にわかってんのか心配だ。 美月は優しいから、クソ狐がまた何か持って来たら、礼を言って受け取るんだろう・・・。 自分が狙われてるって分かってないんだろうな。 俺が護ってやらねぇと。 無意識に、鳥籠が置いてある部屋の畳で爪を研いでしまう。 ちゃんと親父が用意した爪研ぎはあるんだが、畳ばりばりすんのはまた違った楽しみがある。 「麗彪さん、そんなとこで爪研ぎしたら、またぱぱに怒られちゃうよ?」 「親父が恐くて飼い猫なんて出来るか。それより美月、籠の鍵見つけたんだ。親父の部屋から盗んで来た。自由にしてやるからな」 小鳥は空を飛ぶものだ。 こんな籠に閉じ込めていい訳ない。 それに、こんな鳥籠で独りでいるより、俺と一緒に俺のベッドで寝る方が暖かいはずだ。 俺の部屋に連れて行って、毎日毛繕いしてやりたい。 「ぼく・・・このままでもいいよ」 そう言って優しく微笑み、美月は籠の隙間から手を伸ばして俺の尻尾を触りたがった。 美月になら、尻尾も耳も好きなだけ触らせてやる。 「良くない。外に出た方が楽しいぞ。危ないヤツらからは俺が護ってやるから」 「・・・うん」 うんって言ってくれたのに、白い翼が震えてる。 何が不安なんだ? 何が恐いんだ? 俺が全部やっつけてやるから。 「よし、開いたぞ。おいで美月」 躊躇なく鍵を外し、籠を開けた。 差し伸べた手を美月が取ってくれるのを待つ。 この手を掴んでくれたら、絶対に放さない。 俺が美月を護る。 誰にも渡さない。 一生大事にする。 だから、手を取ってくれ・・・。 「麗彪さん、あのね・・・ぼく・・・・・・飛べないんだ・・・」 寂しそうに笑って、美月が言った。 「・・・え?・・・怪我してるのか!?」 さっき翼を震わせていたのは、痛かったからなのか? 何でもっと早く気付かなかったんだ。 親父は何してやがる、早く帰って美月を獣医に連れて行くべきだろ! 「ううん、羽切り(クリッピング)って、飛べなくなるよおにされてるの」 美月がそおっと翼を広げた。 広げた翼をちゃんと見るのは初めてだ。 翼の先、長いはずの風切羽がばっさりと切り落とされている。 それを見た瞬間、心臓を突き刺された様な、(はらわた)を抉られた様な、喉を締め上げられた様な苦しみに襲われた。 「親父が・・・やったのか?」 殺してやる・・・。 「ち、違うよ!ぱぱじゃないよ!ここに来る前に、切られたの・・・」 美月の綺麗な白い翼を傷付けたヤツがいる。 殺してやるころしてやるコロシテヤル・・・。 俺は怒りで暴れ出したいのを抑え、息を吐き、もう一度手を伸ばした。 「飛べなくても、俺と一緒に行こう。こんな鳥籠より俺のベッドの方が暖かいし、歩くの苦手なら俺が抱っこしてやる。もう絶対に美月を傷付けさせたりしないから・・・な?」 俺が護るから、世界で一番大事にするから、俺の手を取ってくれ・・・! 「麗彪さ・・・」 「こぉら!だめじゃないかよっちゃん!」 美月が俺の手を取ろうとしてくれていたのに、間の悪過ぎる事に親父が帰って来てしまった。 すかさず美月を抱き寄せ、飼い主に向かってフ───ッと威嚇する。 「あの、ぱぱ、麗彪さんは悪くないよっ、あの、ぼくが、えっと・・・」 俺の腕の中で、美月が慌てて言い訳しようとしている。 俺が勝手に籠を開けて美月を手に入れようとしたのに、俺を庇ってくれようとしてるんだ。 こんなに優しい美月を傷付けたヤツがいるなんて・・・殺すだけじゃ気が済まない・・・。 「あのねよっちゃん、みっちゃんはまだ上手に飛べないから、籠から出たら危ないんだよ。羽が生え変わるまでは飛ぼうとしちゃだめなんだ」 「美月は俺が面倒見る!だから・・・羽が・・・え、生え変わる、のか?」 美月の翼は傷付けられて、もう飛べないんだと思っていたのに。 生え変わる・・・だと・・・? 「そうだよ、ちゃんと生え変わるから。そしたらお外で遊んでもいいよ。ああでも、よっちゃんがちゃんと手を繋いで、みっちゃんが危なくない様にするなら、籠の外で一緒にいてもいいか。その方がみっちゃんも寂しくないよね」 それから、美月は羽が全部綺麗に生え変わるまでは絶対に飛ばない、俺は美月の手を放さずしっかり面倒を見るという約束で、美月は鳥籠から出て俺の部屋で暮らす事になった。 「んふ・・・っ、麗彪さん、くすぐったぃ・・・っ」 「早く生え変わるように、丁寧に毛繕いしてやるからな。ほら、大人しくしろ」 「んっ、そこ、羽じゃな・・・ぁんっ」 甘くて可愛い小鳥の美月。 俺は、美月の羽が生え変わって飛べる様になった時、この腕の中から出してやれるだろうか。
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