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見ない方がいい虫
【麗彪 side】
ホテルに入った翌日、美月 が寝てる間に親父に電話し、新名 のしでかした事について確認した。
どう落とし前をつけるのか。
結果的に、あの野郎がやった事は、あくまで美月を守るための手段だったと言われた。
親父の指示ではなく新名の独断だったが、どうやら俺への攻撃手段として美月に目をつけたゴミ虫どもがいたらしい。
新名は夏前頃からそれに気付いていて、ゴミ虫どもが美月に接触していないか探るため、狐の真叶 をよこした、と。
ただ、あの誘拐未遂については完全に新名の暴走だったらしい。
美月がマンションで独りになった隙に、本気でコンビニデートへ連れ出そうとしたんだ。
「それは完全にアウトだろ」
「あうと?ダウトじゃなくて?」
ホテルからマンションに戻った事で、ゴミ虫どもの動きが見える様になったらしい。
さっき親父から電話がきて、今夜ゴミ虫の一斉 駆除をするから、俺たちはマンションに籠 って美月を護るため寝ずの番をしてろと言われた。
美月を不安がらせないために、まったりした休日を装っているので、こうやってトランプで遊んだりしてるんだが。
「麗彪さん、俺を疑うんですか?はい、噓は吐いてません。カード持ってってください」
「・・・ち」
手札がやばい事になった。
時任 のくせに正直にカード出してんじゃねぇよ。
「そろそろ美月くんお風呂に入れて、寝かせた方がいいんじゃないですか〜?片付けは俺たちに任せてください〜」
「ああ。美月、風呂入ろう」
俺と美月が風呂に入っている隙に、ゴミ虫駆除の進捗を確認する気なんだろう。
駆除が終わるまでは、俺の担当は美月だけだ。
他の事は親父とあいつらに任せる事にしている。
「麗彪さん、ふってくる虫って、どんな虫なの?」
「降ってくる?あー・・・勝てるはずのない相手に喧嘩を売る頭の悪い虫だな」
「・・・ぇっと、それ、ぼく見た事ない虫?」
「見ない方がいい虫だ」
ただでさえ、新名のせいで分離不安みたいになってんのに、更に恐い思いをさせたくない。
美月は意外にも虫が恐くないらしく、前に実家の庭に蜂が出た時、逃げるどころか観察しようとしていて焦った。
あれは危ないから近付いちゃだめ、と親父が必死に説明していたな。
その後、近付いたり触ったらだめな虫を一通り教えたっけ。
「美月、もしかしたら夜、騒がしくなるかもしれない」
「ん?みんないるから?」
「まあ、そうだな。あいつらが騒ぐかもしれないけど、大丈夫だからな」
部屋に入ってくる事はなくても、外が煩 くなるかもしれない。
あいつらのせいって事にして、誤魔化そう。
「麗彪さんがいっしょにいれば、ぼく大丈夫だよ」
「今夜は美月から片時も離れないと誓います」
「あはっ、おトイレはだめだよ?」
「えー」
仕方ねぇな。
ま、ドアの前で待機するくらいは、許してくれるだろ。
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