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マーキング

麗彪(よしとら)side】 最悪だ。 どうしても外せない、泊まりの仕事が入った。 俺と駿河(するが)時任(ときとう)で出ないといけないのに、片桐(かたぎり)は昨日から別件で帰ってない上、カンナもそっちに行っている。 美月(みつき)が独りになっちまう。 「(さかき)家に預けますか?」 「ヤツがいるだろ」 「でも雅彪(まさとら)さんがいますから、大丈夫じゃないですか?」 「・・・・・・・・・」 マンションで独りにするよりは、実家に預ける方が安全だろう。 害虫駆除が済んだとは言え、同じ様な事を考える馬鹿が他にいないとも限らない。 「背に腹はかえられねぇか」 先ずは美月に確認だ。 「なあ美月」 「なあに?」 「仕事で明日の午後まで帰れないんだ。美月は親父のとこ泊まりに行くか?」 「ぱぱのお家にお泊まり?」 不本意だが、美月は親父に懐いている。 新名(にいな)がいるせいで、暫く親父にも会えていない美月の答えは、まあ予想通り・・・。 「行くっ!」 嬉しそうにするなよ、ムカつくな。 ちょっと意地悪してやりたくなる。 「新名もいるぞ。お前を勝手に連れて行こうとしたヤツが、また無理矢理連れて行こうとするかもしれない。それでもいいのか?」 「に、新名さんは・・・ちゃんと麗彪さんに言ってからお出かけしましょって・・・だから・・・っ」 「・・・ごめん言い過ぎた。泣くなって、ごめん」 忘れかけてたトラウマを俺が煽ってどうすんだ。 謝りながらぎゅっと抱きしめ、美月が落ち着くのを待つ。 「ぼく・・・行かない、方が、いい・・・?」 「いや、独りだと心配だから、親父のとこ行こうな。新名には美月に触るなって言っとくから」 親父に電話をして、仕事に行く前に美月を預けに行く旨を伝える。 それから寝室で着替えをしていると、美月が俺の脱いだパーカーをロンTの上に着てしまった。 「それ着て行くのか?」 「だめ?」 「だめじゃない」 (むし)ろいい。 明日着る服はあっちの俺の部屋にもあるし、手ぶらで連れて行こうとしたが、美月は3匹のぬいぐるみをまとめて抱いて連れて行くと言う。 とらきちは一緒に寝るから、(カワウソ)は親父に見せたいから、真叶(キツネ)だけ置いて行くのは可哀想だから、と。 真叶だけ置いて行けなんて言ったらまた泣きそうで、仕方なくそのまま美月と3匹を連れてマンションを出た。 「みっちゃーん、久しぶりだねぇ!」 「ぱぱー!」 榊家に着いて早々、車まで親父が美月を出迎えに来た。 車から降りた美月の頭を親父が撫でる。 新名の野郎は付いて来てねぇな。 「親父、美月を頼んだぞ。絶対、新名と2人きりにすんな」 「ああ分かってるよ。だがあいつだって悪気があったんじゃない、みっちゃんが好きなんだ。一緒に遊ぶのくらいは許してやってくれ」 親父め、あんなクソ狐の肩を持ちやがって。 息子の嫁が他の男に(たぶら)かされんのを許せとかよく言えるな。 「ほら、もう行きな。せっちゃんとさっちゃんも、麗彪を頼んだよ」 「はぁ〜い、任せてください〜」 「雅彪さん、美月をよろしくお願いします」 親父に託した大事な美月に、車に戻る前にマーキングをしておく。 きつく抱きしめながらキスして、美月の息が上がってから首筋に痕を残す。 昨日付けた痕とは別の場所だ。 毎日ひとつずつキスマークを付けているが、消えるのに1週間くらいかかるから、美月に残る痕は常に複数になる。 「んぅ・・・っ」 「明日、なるべく早く迎えに来るから」 「・・・うん、待ってる」 とろん、とした笑顔を見せる美月を攫って行きたい衝動を抑え、親父に蹴られながら車に乗り込み、行きたくもない会合へ向かった。

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