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ドライヤー

麗彪(よしとら)side】 仕事と会食も終わり、ホテルに入ってシャワーを浴びた。 もう23時を過ぎたが、美月(みつき)は起きているだろうか。 電話をかけると、ワンコールで繋がる。 『麗彪さんっ!』 「美月、起きてたのか」 『うん、麗彪さんから電話くるの待ってた』 携帯握りしめて、俺からの着信を待つ姿が目に浮かんだ。 どんだけ可愛いんだよ。 「どこにいる?」 『麗彪さんのお部屋。お風呂もちゃんとひとりで入ったよ。麗彪さんは?』 「ホテル。シャワー浴びてきたとこだ」 『ちゃんと髪の毛乾かした?』 「・・・これから」 『もお。寝ぐせついちゃうよ?』 前に、美月の髪を乾かさず抱いて、そのまま寝て起きた時の寝癖が可愛くて揶揄(からか)ったの、根に持ってるな。 「明日も朝イチから仕事だしな。寝癖つかない様にちゃんと乾かすよ」 『時任(ときとう)さんにドライヤーしてもらってね』 「自分で出来るって。美月はちゃんと乾かしたのか?」 『うん。新名(にいな)さんに乾かしてもらったよ』 「・・・・・・は?」 何度も言っておいたはずなんだが。 新名と2人きりになるな、と。 それどころか、ヤツに髪を触らせたのか? 俺を舐めてんのか? 『麗彪さん・・・?』 「言ったよな、新名はだめだって」 『ふ、2人きりじゃないよっ、ぱぱもいたよっ、みんないる部屋でドライヤーしてもらったのっ』 「でもヤツに触らせたんだろ。俺が嫌がるってわかっててやってんの?」 『ち、ちが・・・』 「美月はさぁ、そんなに新名が好きなの?」 『麗彪さんが好きっ!麗彪さんが大好きぃっ!ぼくが愛してるのぉっ、ぅ、麗彪さんだけぇ・・・っ、ふぇぇ・・・』 くそ、やっちまった。 抱きしめて慰める事が出来ない距離なのに、美月を泣かせるなんて。 「ごめん美月、分かってる、俺も愛してるのは美月だけだ。ごめん、泣くな。今すぐ会いたい」 『・・・っふ、ぅん、ぁ、会いたいぃ・・・っ』 (そば)に居ないから、泣かせたくなかったのに、(そば)に居ないから、意地悪を言ってしまった。 何考えてんだ俺は。 「美月・・・みつき・・・」 『・・・ん、・・・なあに?』 「愛してる。意地悪言ってごめんな」 『・・・っ、ううん、ぼくが、麗彪さんがやな事したのが悪いもん。ごめんなさい』 素直で優しい美月。 きっと、ドライヤーも本当は自分でやろうとしたんだろう。 それをクソ狐が手を出して、美月は断れなかったんだ。 せめて、約束通り2人きりにならない様、親父たちの居る部屋で。 つまり、悪いのはヤツだ。 「明日、急いで帰るから。昼飯は一緒に食べに行こう。美月が行ってみたいって言ってた回転寿司、行こうな」 『ほんとっ?嬉しいっ!門のとこで待ってる!』 「ははっ、寒いから中で待ってろよ」 おやすみ、と言って電話を切る。 部屋を別にした駿河(するが)に電話して、明日の昼は美月と回転寿司行くから、とだけ言っておいた。 昼過ぎまでこっちで予定があったが、何とかしてくれるだろ。 美月と初めての回転寿司。 楽しみ過ぎて顔が緩むのを感じながら、ドライヤーを手に取った。

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