113 / 300
ドライヤー
【麗彪 side】
仕事と会食も終わり、ホテルに入ってシャワーを浴びた。
もう23時を過ぎたが、美月 は起きているだろうか。
電話をかけると、ワンコールで繋がる。
『麗彪さんっ!』
「美月、起きてたのか」
『うん、麗彪さんから電話くるの待ってた』
携帯握りしめて、俺からの着信を待つ姿が目に浮かんだ。
どんだけ可愛いんだよ。
「どこにいる?」
『麗彪さんのお部屋。お風呂もちゃんとひとりで入ったよ。麗彪さんは?』
「ホテル。シャワー浴びてきたとこだ」
『ちゃんと髪の毛乾かした?』
「・・・これから」
『もお。寝ぐせついちゃうよ?』
前に、美月の髪を乾かさず抱いて、そのまま寝て起きた時の寝癖が可愛くて揶揄 ったの、根に持ってるな。
「明日も朝イチから仕事だしな。寝癖つかない様にちゃんと乾かすよ」
『時任 さんにドライヤーしてもらってね』
「自分で出来るって。美月はちゃんと乾かしたのか?」
『うん。新名 さんに乾かしてもらったよ』
「・・・・・・は?」
何度も言っておいたはずなんだが。
新名と2人きりになるな、と。
それどころか、ヤツに髪を触らせたのか?
俺を舐めてんのか?
『麗彪さん・・・?』
「言ったよな、新名はだめだって」
『ふ、2人きりじゃないよっ、ぱぱもいたよっ、みんないる部屋でドライヤーしてもらったのっ』
「でもヤツに触らせたんだろ。俺が嫌がるってわかっててやってんの?」
『ち、ちが・・・』
「美月はさぁ、そんなに新名が好きなの?」
『麗彪さんが好きっ!麗彪さんが大好きぃっ!ぼくが愛してるのぉっ、ぅ、麗彪さんだけぇ・・・っ、ふぇぇ・・・』
くそ、やっちまった。
抱きしめて慰める事が出来ない距離なのに、美月を泣かせるなんて。
「ごめん美月、分かってる、俺も愛してるのは美月だけだ。ごめん、泣くな。今すぐ会いたい」
『・・・っふ、ぅん、ぁ、会いたいぃ・・・っ』
傍 に居ないから、泣かせたくなかったのに、傍 に居ないから、意地悪を言ってしまった。
何考えてんだ俺は。
「美月・・・みつき・・・」
『・・・ん、・・・なあに?』
「愛してる。意地悪言ってごめんな」
『・・・っ、ううん、ぼくが、麗彪さんがやな事したのが悪いもん。ごめんなさい』
素直で優しい美月。
きっと、ドライヤーも本当は自分でやろうとしたんだろう。
それをクソ狐が手を出して、美月は断れなかったんだ。
せめて、約束通り2人きりにならない様、親父たちの居る部屋で。
つまり、悪いのはヤツだ。
「明日、急いで帰るから。昼飯は一緒に食べに行こう。美月が行ってみたいって言ってた回転寿司、行こうな」
『ほんとっ?嬉しいっ!門のとこで待ってる!』
「ははっ、寒いから中で待ってろよ」
おやすみ、と言って電話を切る。
部屋を別にした駿河 に電話して、明日の昼は美月と回転寿司行くから、とだけ言っておいた。
昼過ぎまでこっちで予定があったが、何とかしてくれるだろ。
美月と初めての回転寿司。
楽しみ過ぎて顔が緩むのを感じながら、ドライヤーを手に取った。
ともだちにシェアしよう!

