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美月が無事なら
【麗彪 side】
会議中で、携帯に入ったメッセージに気付くのが遅れた。
メッセージの送り主がクソ狐だと分かった瞬間、携帯を握り潰しそうになる。
内容は「片桐 は取込み中なので代わりにお嬢の昼飯を作ります」とあった。
どういう事か確認しようと片桐に電話するも繋がらず、美月 と居るはずのカンナも繋がらない。
俺は急いで時任 とマンションへ向かい、駿河 は会社に残してカンナと片桐の居所を確認させた。
車がマンション近くを走っている頃、駿河から連絡が入り、カンナは急遽呼ばれ片桐を待たず部屋を出て、入れ違いで来るはずだった片桐は、シマを荒らしていた半グレに絡まれ、やっと片付けた所で連絡がついた、と。
しかも、片桐が持っていた買い物袋と、脱ぎ捨てたジャケットが無くなっていたらしい。
ジャケットにはマンションの鍵が入っているのに。
片桐の荷物を盗んだのは間違いなく新名 だ。
マンションに着き部屋に入ると、ダイニングで美月と新名が並んで食事をしていた。
俺が来た事に驚いたのか、美月が箸を落とす。
頭に血が昇り、新名を怒鳴りつけてしまったが、殴るのだけは我慢した。
美月の前で暴力は振るいたくない。
「・・・ごめ・・・なさ・・・っ」
震えた声に、はっと我に帰る。
俺がキレてんのが恐かったんだろう。
美月が、ぼろぼろと涙を流している。
「美月・・・泣くな。恐がらせたか。大丈夫だから、泣くなって。おい新名、てめぇは外で待て」
「分かりました」
大人しく玄関から出て行く新名。
時任もいるし、逃げはしないだろう。
「美月、ごめん。怒鳴って悪かった。恐かったよな。ごめん・・・」
「・・・っ、ぼく、が・・・わる・・・の・・・っ、よし、とらさ・・・っ、おこ、らせ・・・っ、ごめ・・・なさ・・・っ」
しゃくり上げながら謝る美月。
お前が謝る必要なんてないのに。
「美月は悪くない。恐がらせた俺が悪い。そっち行って・・・ぎゅってしていいか?」
拒否されたら、立ち直れないかもしれない。
それでも、怯える美月に了承も得ず近付く事が出来なかった。
「っ、ぅん、き・・・てぇっ」
泣きながら、それでも両手を広げて、俺を受け入れてくれる。
俺は何をやってんだ。
美月が無事ならいいじゃねぇか。
美月を恐がらせてまで、新名に怒りをぶつける必要なんてないだろうが。
「美月・・・無事で良かった・・・」
強く抱きしめると、美月も俺の背中に手を回し、ぎゅっと抱き付いてくる。
俺の事が恐かったはずなのに、それでも受け入れて、抱きしめ返してくれる。
美月に、何があったか聞くのはやめよう。
一緒にいた新名が責められているのに、自分が悪いと謝ってしまう美月をこれ以上追い詰めたくない。
「美月、キスさせてくれ。顔上げて」
「・・・っ、・・・ぅん」
キスしながら抱き上げて、リビングのソファに移動する。
向かい合わせで膝上に座らせ、何度も何度も唇を重ね、頬を撫で、背中を摩り、美月の涙が渇くまであやした。
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