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放置された忠犬
【麗彪 side】
「成る程、それで俺の事をすっっかり忘れたまま大団円、と」
「悪かったって」
会社に戻ったが、既に仕事は駿河 が片付けていた。
迎えに来た俺たちを見た瞬間、捨てられた犬みたいに駆け寄って来たが、第一声は「美月 くんは無事なんですか!?」だったのには少し笑った。
置いていかれ放置された自分の事より美月の心配か。
大した忠犬っぷりだ。
帰路に着く車中で、新名 の生い立ちと美月への執着の理由を話す。
10年近く父親から虐待され、それでも幼い妹を護ろうとしていた事。
その大事な妹を父親に殴り殺され、父親を自ら殺した事。
美月に失った妹を重ねている事。
話終わると、黙って聞いていた駿河がいつもの調子で口を開いた。
「それにしても、知らなかったとは言え可哀想な狐くんを問答無用で殴り飛ばすなんて。美月くんに知れたら嫌われる所の騒ぎじゃ済まないですね〜」
助手席から運転手にヤジが飛ぶ。
誘拐騒ぎの時から、時任 がずっと新名に殺意を抱いていたのは知っていた。
俺もだが。
駿河だって止める気もなかった癖に、時任ばかり責めるのは可哀想だろ。
「・・・腹しか殴ってない。あいつもわざわざ美月に痣見せるなんてしないだろ」
「ちゃんとごめんなさいした〜?」
「・・・後で」
「駿河、弄ってやるな。美月の目がなかったら俺が殴り倒してたんだからな」
事情はわかったし、新名が美月に危害を加える気がないのもわかった。
ヤツにとって、美月の安全と幸せが一番なんだろう。
だから手駒 として使ってやる事にしたんだ。
美月にも喧嘩しないと約束したし。
「2人は戦闘力高いから新名を物理で叩きのめせるでしょうけど、俺はそうもいかないんで・・・俺だって美月くんを苦しませた事に関して、新名に怒りをぶつけたかったんです。裏で手を回そうにも全く動きが読めなくて・・・俺だって苦労してたんですよ〜」
仕事以外にも何かやってるのは気付いてたが、新名をなんとかしようとしてたのか。
シフト組むのも大変そうだったのに、こいつも片桐 並みに睡眠時間削ってたみたいだな。
「蟠 りはあるだろうが、美月に免じて忘れろ。万が一クソ狐が美月になんかしたら、その時はお前らで処理し・・・」
「「わかりました」」
食い気味に了承すんな。
まだ暫くは、こいつらと新名を組ませんのはやめた方がいいな・・・。
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