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コンビニデート
【麗彪 side】
「麗彪さん、お願いがあります」
「・・・なんだ」
「お嬢と2人でお出かけする許可をください」
「・・・あ"?」
休日の昼下がり、美月 と片桐 が並んで皿洗いしているのを眺めていたら、新名 が命知らずな願いを口にした。
「12月29日 、誕生日なんです」
「・・・・・・」
「手を繋いで、コンビニデートさせてもらえませんか」
「・・・・・・くそ。美月がいいって言ったらな」
新名 の誕生日は4月だったはずだ。
たぶん、死んだ妹の誕生日なんだろう。
前に酒を飲んで、妹の誕生日は手を繋いで近所の駄菓子屋に行ったとか話してた。
頭ごなしにだめだと言い難 い。
「ありがとうございます!」
新名は最敬礼して、跳ねるようにキッチンへ飛んで行った。
「お嬢!俺と2人でコンビニデート行きましょう!麗彪さんが行っていいって言ってくれたんです!」
「え?・・・麗彪さん、いいの?」
皿を洗い終わって手を拭きながら、俺に確認を取る美月。
お前が嫌なら行かなくていいんだぞ。
「美月が嫌じゃないなら、可哀想な狐を連れて行ってやれ」
「・・・うん、わかった!新名さん、ぼく着替えてくるね」
「はい!」
狐も嬉しいと尻尾を振るんだな。
あ、そうだ。
「美月、コートの下はこれ着てけ」
ふわもこの部屋着を脱いだ美月に、今自分が着てるロンTを脱いで着せる。
下はジーンズでいいだろ。
その上に、この前駿河 が買ってきたファー付きの白いダウンコートを着せて、首元までチャックを上げる。
「ふふ。麗彪さん、代わりにぼくの着る?」
「小さ過ぎ。俺が風邪ひく前に帰ってこいよ」
「うんっ!」
て事で、美月が戻るまで俺は半裸で待つ・・・訳がなく。
「麗彪さん、わざわざ後を付けなくても・・・」
「うるせぇ片桐。美月には黙ってろよ」
呆れ顔の片桐を連れ、いつもは美月と手を繋いで歩いているコンビニまでの道程をこそこそと歩く。
美月は楽しそうに喋りながら、新名と手を繋いで少し前を歩いている。
・・・思った以上にイラつくな。
「優しいですね」
「何がだ」
「新名に美月くんを譲るなんて」
「譲ってねぇよ」
この所、だいぶクソ狐を酷使してたのは自覚してる。
美月も、前に新名の誘いを断った事、少し気にしてたみたいだし。
妹の誕生日 くらい、許してやってもいいだろう。
「何買うんでしょうね」
「飯食ったばっかだから肉まんじゃねぇな。寒いからアイスでもない。チョコとかだろ」
「あ、出て来ますよ。先に戻った方がいいんじゃないですか?」
「・・・仕方ねぇな」
片桐と先にマンションへ戻り、美月が出かける前の格好に着替えて帰りを待つ。
駿河 と時任 がいなくて良かった。
あいつらがいたら、半裸で待つ様をバカにされただろう。
「ただいまぁ!」
「・・・お帰り。何買ってき・・・なんだその量は」
美月も新名も繋いでない方の手にぱんぱんのコンビニ袋を持って帰って来た。
どうやら、コンビニにある菓子を片っ端から買ってきたらしい。
美月は早速、リビングのテーブルに菓子を並べて片桐に見せてやっている。
「チョコ系のお菓子を全種類買いました。あの頃は出来ませんでしたけど、今は何でも出来るんで!」
「・・・そうかよ。・・・ったく、クソ狐の癖にこの程度で泣いてんじゃねぇよ」
「はは。泣きそうですけど、泣いてません」
「・・・俺が家にいる時で、美月がいいって言えば、また行ってもいいぞ。・・・12月29日 じゃなくても」
「・・・ありかとう、ございます・・・っ」
その代わり、今後も馬車馬の如くこき使うからな。
だから、コンビニデート で泣くんじゃねぇ。
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