145 / 300

⭐︎番外編⭐︎片桐と美月

片桐(かたぎり)side】 「美月(みつき)くん、寒く無いですか?」 「だいじょーぶっ」 美月くんが滑り台が好きだと聞いたので、車で少し行った所にある大きなローラー滑り台にやって来た。 今日は私以外、(シノギ)で出払っている。 こうして美月くんと2人で遊んでいられる理由は2つ。 下準備で良い仕事をして休みを貰えたのと、万が一に備えて美月くんの位置情報を不明にしておく為。 「おっきい滑り台・・・すごいっ!」 「恐くないですか?」 「ううん、早く滑ろっ!ね、片桐さんもいっしょに滑ろっ!」 「お供します」 静かな森林公園の中にある、割と良く管理されたローラー滑り台。 安全性も問題ない事は、事前に確認済みだ。 ウレタンマットを借りて、美月くんを前に、私がその後ろに座る。 脚の間に美月くんを座らせ、私がマットの先端を掴むと、私の手を上から握ってくれた。 美月くんはいつだって、何の躊躇(ためら)いもなく私の手を握ってくれる。 赤を通り越して黒く染まるまで汚れた、私の手を。 「きゃーあーっ!」 滑り出すと声を上げて喜んでくれる。 この無垢な少年は、私がお掃除屋さんだと思っていて、本当は何をしているか知らない。 前に「お掃除屋さんの片桐さんは綺麗好きだから、いつも石鹸の匂いがするんですね」と言われた事があった。 君に、血生臭いと言われたくなくて、何度も手を洗ったからなんですが。 洗い過ぎて少しカサついた手に、丁寧にハンドクリームを塗ってくれた美月くんは、麗彪さんが言う通り天使なんだろう。 「すごーいっ!はやーいっ!」 「私が一緒で重いからですね。恐くないですか?」 「だーいじょーぶーっ!」 覗き込むと、わざわざこっちを向いて、輝く様な満面の笑みを見せてくれる。 どんなにどす黒い闇も、真っ白に浄化してしまう様な笑顔だ。 「もーいっかい!片桐さんもーいっかいやろっ!」 「はい」 滑りきって、興奮冷めやらぬ美月くんを連れ、再び滑り台の上へと向かう。 坂を利用したローラー滑り台なので、少し足場の悪い坂を登る事になる。 この様子だと何度か往復するだろうし、楽しむ事にだけ体力を使ってもらえる様に提案をした。 「美月くん、よかったらおんぶしましょうか?」 「おんぶ・・・いいんですか?」 「もちろん。どうぞ」 しゃがんで背中を向けると、迷わず背中に抱き付き首に腕を回してくれる。 私が背中を向けて、首に腕を回される事に全く抵抗を感じないのは美月くんだけだ。 ・・・やっぱりまだ軽い。 初めて会った頃よりは健康的になってきたと思うが、元々が小さく華奢な子だし・・・。 「重くないですか?」 「え?・・・大丈夫ですよ。でも、美月くんも少し大きくなりましたよね」 「ほんとっ!?うん、ぼくちょっと大きくなったんですよ!あと1年で片桐さんみたくなれるかもっ!」 「それは楽しみですね」 背中の尊い温もりと、楽し気な可愛らしい声に癒され、昨日までの仕事の疲れが消え失せていった。

ともだちにシェアしよう!