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⭐︎番外編⭐︎片桐と美月
【片桐 side】
「美月 くん、寒く無いですか?」
「だいじょーぶっ」
美月くんが滑り台が好きだと聞いたので、車で少し行った所にある大きなローラー滑り台にやって来た。
今日は私以外、鎬 で出払っている。
こうして美月くんと2人で遊んでいられる理由は2つ。
下準備で良い仕事をして休みを貰えたのと、万が一に備えて美月くんの位置情報を不明にしておく為。
「おっきい滑り台・・・すごいっ!」
「恐くないですか?」
「ううん、早く滑ろっ!ね、片桐さんもいっしょに滑ろっ!」
「お供します」
静かな森林公園の中にある、割と良く管理されたローラー滑り台。
安全性も問題ない事は、事前に確認済みだ。
ウレタンマットを借りて、美月くんを前に、私がその後ろに座る。
脚の間に美月くんを座らせ、私がマットの先端を掴むと、私の手を上から握ってくれた。
美月くんはいつだって、何の躊躇 いもなく私の手を握ってくれる。
赤を通り越して黒く染まるまで汚れた、私の手を。
「きゃーあーっ!」
滑り出すと声を上げて喜んでくれる。
この無垢な少年は、私がお掃除屋さんだと思っていて、本当は何をしているか知らない。
前に「お掃除屋さんの片桐さんは綺麗好きだから、いつも石鹸の匂いがするんですね」と言われた事があった。
君に、血生臭いと言われたくなくて、何度も手を洗ったからなんですが。
洗い過ぎて少しカサついた手に、丁寧にハンドクリームを塗ってくれた美月くんは、麗彪さんが言う通り天使なんだろう。
「すごーいっ!はやーいっ!」
「私が一緒で重いからですね。恐くないですか?」
「だーいじょーぶーっ!」
覗き込むと、わざわざこっちを向いて、輝く様な満面の笑みを見せてくれる。
どんなにどす黒い闇も、真っ白に浄化してしまう様な笑顔だ。
「もーいっかい!片桐さんもーいっかいやろっ!」
「はい」
滑りきって、興奮冷めやらぬ美月くんを連れ、再び滑り台の上へと向かう。
坂を利用したローラー滑り台なので、少し足場の悪い坂を登る事になる。
この様子だと何度か往復するだろうし、楽しむ事にだけ体力を使ってもらえる様に提案をした。
「美月くん、よかったらおんぶしましょうか?」
「おんぶ・・・いいんですか?」
「もちろん。どうぞ」
しゃがんで背中を向けると、迷わず背中に抱き付き首に腕を回してくれる。
私が背中を向けて、首に腕を回される事に全く抵抗を感じないのは美月くんだけだ。
・・・やっぱりまだ軽い。
初めて会った頃よりは健康的になってきたと思うが、元々が小さく華奢な子だし・・・。
「重くないですか?」
「え?・・・大丈夫ですよ。でも、美月くんも少し大きくなりましたよね」
「ほんとっ!?うん、ぼくちょっと大きくなったんですよ!あと1年で片桐さんみたくなれるかもっ!」
「それは楽しみですね」
背中の尊い温もりと、楽し気な可愛らしい声に癒され、昨日までの仕事の疲れが消え失せていった。
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