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⭐︎番外編⭐︎新名と美月

新名(にいな)side】 「お嬢っ!行きましょう」 「うんっ」 麗彪(よしとら)さんに許可を貰い、お嬢と手を繋いで2度目のコンビニデート。 お嬢はもう、あの時みたいに不安な顔をしたりしない。 俺の手を握り返して、笑ってくれる。 「ねえ新名さん、肉まんと、ピザまんと、あんまん、どれが好き?」 「んー、肉まん・・・いや、やっぱりピザまんですかね」 「ふふっ、ピザまんも美味しいよね」 お嬢は肉まんが好き。 でもきっとピザまんもひと口食べたいはずだ。 だから俺がピザまんにすれば、お嬢は両方食べられる。 時刻は15時半。 時任(ときとう)が居ないので、おやつはコンビニで買い食いしましょうと言って誘った。 その間に麗彪さんは部屋で、お嬢に聞かせたくない内容の電話をするはずだ。 その証拠に、今日は後を付けて来ていない。 完全に、お嬢と2人きりでデート。 コンビニに入り、他に欲しいお菓子がないか店内を少し見て、レジに行き肉まんとピザまんを買う。 袋は断ったが、まだ熱いのでお嬢には持たせられない。 「お嬢、熱いのでどこかに座って食べましょう」 「うんっ。新名さん、手、大丈夫?」 なんて優しいんだろう。 これくらい、なんとも無いのに。 俺なんか火傷したって、放っておいても構わないのに。 「大丈夫ですよ。あっちの遊歩道にベンチがあるので、行きましょう」 「はぁいっ」 右手に肉まんとピザまん、左手にお嬢の可愛い手。 こんな日がくるなんて、思ってもみなかった。 (みつ)を失って、雅彪(まさとら)さんに拾われ、ヤバい仕事ばっかり好んでやってきた。 ()ってる時は色々楽になれて、数をこなせばどんどん(どこか)が鈍くなって、何のために何を壊してるのか分からなくなって。 そんな俺が、お嬢に会った。 俺をじっと見てくるから、貼り付けた笑顔が剥がれでもして恐がられたのかと思ったのに、可愛く笑って「キツネさんににてますね」と言ってくれた。 そう、狐さんに似てるんですよ。 妹にも、そんな屈託の無い笑顔で、言われた事がある。 たったそれだけの事だったけど、この子の為に命を使おうと思えた。 今の俺なら、必ず護り通せると。 「はい、あーんしてください」 「あー・・・んむっ」 火傷しない様に、肉まんを少し冷ましてから、お嬢の口へ運ぶ。 躊躇(ためら)いもなく食べてくれる姿を見て、また少し泣きそうになった。 妹を失ったあの日以来、泣いた事なんてなかったのに。 お嬢に会ってから覚えた、嬉し涙。 「新名さんも、ひと口どおぞっ」 「ありがとうございます。お嬢もピザまんどうぞ」 あの子にしてあげたかった事、してやれなかった事、全てをこの子に。 お嬢が笑っていてくれるなら、俺もちゃんと笑っていられるから。

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