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⭐︎番外編⭐︎ 雅彪と美月
【雅彪 side】
「みっちゃん、パパと鰻食べに行こう」
「うんっ!」
面倒な仕事が片付き、可愛いみっちゃんと2人で出掛ける時間が出来た。
邪魔が入らない様に前もって、この子の取巻きどもにはそれぞれ別件の仕事を押し付けておいた。
麗彪 は渋っていたが、半日は 息子の嫁 を独占出来る。
「特上2つ、1つは米は少なめで。あと、うまきも頼む」
馴染みの店へ行き、奥の個室に通されて注文をする。
以前みっちゃんと一緒に来た時、鰻重の米を残すのが嫌だったのか無理やり完食しようとしていて、慌てて止めた事があった。
だから前もって少なめにしておかねぇとな。
「ぱぱも、うまき好き?」
「ん?好きだよ。みっちゃん程じゃねぇけどな」
みっちゃんは鰻も好きだが、うまきが好物だ。
好きなだけ食べていいと言っても遠慮してしまうので、麗彪 が口に運んでやっていた。
今日はその役を俺が出来る。
待ってる間、みっちゃんが最近覚えた手遊びをしようと言ってきた。
アルプス一万尺だ。
俺なんかとこんな遊びをしたがるなんて、みっちゃんだけだな。
麗彪はそんな事してくれるタイプじゃなかったし、雪 も惺 も麗彪にばかり構って俺とは遊んでくれなかったし。
ぱち、ぱち、と俺の手に躊躇なく触れる可愛い手。
本当に俺が恐くないんだなあ。
あったけぇなあ。
「あっ、間違っちゃったっ」
「そうかい?俺より上手じゃねぇか」
「ほんと?えへへっ」
褒めると、嬉しそうに笑ってくれる。
本当に可愛いなあ。
そうこうしているうちに、漆塗りの重箱と肝吸いの椀が2つと、うまきが運ばれてきた。
「さあ食べよう。いただきます」
「いただきまぁすっ」
重箱と椀の蓋を開けてやり、箸も持たせてやる。
何でだか、みっちゃんには世話を焼いてやりたくて仕方がない。
麗彪たちには程々にしろと言っている手前、こうして2人きりでないと出来ないんだが。
「ねえ、ぱぱ・・・」
「ん。いいよ」
みっちゃんは肝吸いの肝が苦手だ。
初めて食べる時に、麗彪からこれが何なのか聞いて、恐くなってしまったらしい。
肝だけ食べてやれば、あとは自分で食べられる。
「ほら、みっちゃん、あーん」
「あー・・・んむっ」
ひと口大に切ったうまきを箸でみっちゃんに食べさせてやる。
このまま、何もかも全て、やってやりたくなっちまうな。
「ぱぱも、あーん」
「あーん」
みっちゃんが、俺にもうまきを食わせてくれる。
こんなに警戒心なく俺たちに接してくれるのが不思議なくらい、純粋で優しくて孅 い子が。
・・・ああ、うちの嫁は本当に可愛い。
初めて会った時、俺と麗彪を見比べる様や、俺に呼ばれて素直に来ようとした姿が可愛らしくて、ああこの子は大事にしてやろうと思った。
会う度に、その想いは募っていく。
「みっちゃん、美味しいかい?」
「うんっ!ぱぱといっしょのご飯、美味しいっ!」
麗彪はこの子を囲って、都合の悪い事は隠したり無かった事にしているらしい。
俺もそれがいいと思っている。
15年も母親の檻に閉じ込められていたこの子が、また別の檻に入れられただけだとしても。
碌でも無い外の世界なんかより、何一つ不幸のない幸福で満たされた檻ならば。
きっと、それがいい。
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