153 / 300
サシ飲み
【麗彪 side】
「珍しいじゃねえか、お前が俺とサシで飲みたいなんて」
「ちょっとな」
今日は会合だのなんだのあって、美月 も連れて実家に泊まる事になった。
部屋で美月を寝かし付けてから、親父とサシ飲みしている。
「こないだ親父のせいで疲労困憊 した俺に、イイコトがあったんだ」
「あ?なんだそりゃ」
明白 に面倒臭そうな顔すんなよ。
「どーせみっちゃんに優しくしてもらったんだろ。んな事一々報告すんな・・・」
「美月が優しいのはいつもの事だ。それよりイイコトだよ」
思わずニヤニヤしちまうな。
それに反し、親父は眉間に皺が寄っている。
「だから、なんだっつーんだよ」
「美月が、麗彪さんはぼくのだよって言ったんだ」
「・・・・・・ああ"?」
あの美月が、俺に対して独占欲を見せた。
サンタへの手紙に2年連続で「麗彪さんをください」とは書いてくれたが、あくまでクリスマスプレゼントとして俺と2人きりの時間が欲しいってだけだったから、明らかに俺を自分のモノだと主張したあの言葉にはクるものがあった。
美月が何かを自分のモンだと主張する事なんて初めてで、しかもその対象が俺。
嬉し過ぎて正直、泣くかと思った。
「・・・そりゃ、お前、脅して無理矢理言わせたんじゃねぇだろうな?」
「俺が美月を脅せると思うのかよ」
「無理か・・・そうか、みっちゃんが・・・なんで麗彪なんか欲しがっちまったんだ・・・」
自分の息子を「なんか」とか言うな。
むしろ誇れ、美月に欲しがられる息子を。
「俺もみっちゃんに、パパはぼくだけのパパって言って欲しいなあ」
「俺のパパで我慢しろ」
「こっちの実子 は可愛くねえなあ・・・」
そこから、俺の幼少時代の話が始まり、5歳の頃が一番可愛かったとかくだらない事を言い出しやがった。
まあ、今の俺は気分がいいから聞いてやる。
「麗彪 と時任 で悪戯ばっかしてなあ・・・駿河 は2人よりお兄ちゃんだからって罪を被せられて、あれで隠蔽 スキル上がった様なもんだな・・・」
「あー、んな事もあったな」
まあ、駿河 だって加担した悪戯もあったぞ。
片桐 に罪を擦 り付けてただけで。
「5歳のみっちゃんがウチにいたら・・・かぁわいかったんだろうなあ・・・」
「美月が5歳なら、俺と時任 が13で、駿河 が15か・・・」
「・・・だめだ、そん時のお前らとみっちゃんを一緒になんてしておけねえ」
確かに荒れてたが・・・相手が美月ならたぶん、荒れてる所は見せなかっただろ。
5歳の美月か・・・可愛いのは当たり前なんだろうが・・・。
「・・・5歳の美月は、どうしてたんだろうな」
「聞きてえか?」
「あ?・・・知ってんのかよ?」
親父の事だ、美月の過去を徹底的に調べたに違いない。
もしかしたら、オカアサンも・・・。
「お前が知ってる以上の事はねえよ。暴力を振るわれてたが、医者にかかった事もなかった。完全に、母親の作った檻の中に閉じ込められてたんだ。その檻も見てきたが・・・」
「・・・見て、どうした」
親父はぐっと酒を呷 ってから、にやりと笑って言った。
「焼いてきた」
焼いたのは、家 だけか?
「勝手に悪かったな。だが胸糞悪過ぎてこの世から消し去りたかったんだ。赦せ」
「・・・檻を作ったヤツはどうした」
聞いてどうする。
檻と一緒に焼いたと言われたら、自分で手を下せなかった事にキレるのか。
まだ生きてると言われたら、苦しめて苦しめて生まれてきた事を後悔させてから殺してくれと頼むのか。
それとも自分で・・・。
「もう忘れろ。お前はみっちゃんのモノなんだろ?みっちゃんの事だけ考えてろ。パパに任せて、子どもたちは悪戯でもして遊んでなさい」
「・・・ははっ。庭に落とし穴でも掘るか」
「おい、2m以上掘るのは勘弁してくれよ?自力で這い上がれる深さにしやがれ」
美月が親父をぱぱと呼んで懐くのは、気に入らないが認めている。
この親父なら、仕方ないだろ。
ともだちにシェアしよう!

