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退院
【麗彪 side】
「ご迷惑をおかけしました」
「別に迷惑だなんて思っちゃあいないよ。回復して何よりだ」
「ほんと、一時はどうなるかと思ったわよ」
手術の2日後に目を覚ました片桐 が、1ヶ月して退院する事になった。
俺と駿河 、親父とカンナが退院手続きに立ち会っている。
「それで、暫 くは榊家 に来るかい?」
「そうですね・・・」
「いや、うちに来い。美月 がずっと会いたがってる。下にカンナもいるし」
「麗彪さんのマンションに、ですか?」
「おっと、完全にお前の手駒 に入れるつもりか」
これを機に、片桐を俺のとこへ置くことにした。
部屋も1つ空いてるし、片桐が美月の傍にいるのは何かと都合がいい。
「断るなよ。お前のベッドは美月が選んだんだからな」
「喜んで麗彪さんの元へ参ります」
「ははっ、そりゃあ断れるわけないな。片桐め、羨ましいなあ」
親父は迎えの車に乗って帰り、俺たちは駿河の運転でマンションへ。
車中で片桐に口裏合わせをしておかねぇと。
「お前は休みを取って旅行へ行ってた事になってる」
「はい。アマゾンのジャングル体験に行って来ました」
「よし」
さすが片桐、即応力が高いな。
なら、その腹の新しい傷はアナコンダにやられたって事にするか。
「その・・・美月くんは私が一緒に住む事は・・・」
「悔しいが、喜んでる」
「そうですか」
嬉しそうにすんな、ムカつくな。
マンションに着き、平然と歩いてる片桐を見ながら、やっぱこいつは人間じゃなかったかもしれないと思った。
「ただいま美月」
「お帰りなさい。あっ!片桐さん、お帰りぃっ!」
帰ってきた俺を見た時より、更に嬉しそうな顔になった美月。
・・・くそ、今日だけだぞ。
「ただいま帰りました。今日からよらしくお願いします」
「はいっ!あのね、片桐さんのベッド、麗彪さんといっしょに買いに行ったんですよ!大きいのにしたからねっ!」
「はい、ありがとうございます」
あ、そうだ、念の為言っておくか。
「あのな美月、片桐は旅行先で腹を壊したから、暫くは安静にさせてやってくれ」
アナコンダに噛まれたなんて言ったらショック受けるだろうし、アマゾン川の水で腹を壊した程度にしておく。
「えっ、だ、大丈夫?ベッド行く?お薬は?」
「大丈夫ですよ。もうだいぶ良くなりましたから。激しい運動をしなければ何ともありません」
美月が片桐を労 りながら、手を取ってリビングのソファに座らせてやる。
それを見て、ジムに連れて行って走らせてやりたい衝動に駆られた。
まあ、美月に全力で反対されるだろうけど。
・・・あ、なに片桐の隣に座ってんだよ?
そんなに懐く事ないだろ!
「お腹痛いなら、おやつは食べない方がいい?時任 さんと、ぼくがお手伝いして作ったんだけど・・・」
「喜んでいただきます!」
今日のおやつは美月と時任 が作った、苺のシャルロットケーキだ。
チョコプレートに「片桐さんおかえり」と、美月自らチョコペンで書いていた。
・・・片桐め・・・わかってると思うが、心して食えよ。
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