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美月、5歳の天使
【麗彪 side】
学校での授業が終わり、同じクラスの時任 と急いで迎えの車に乗り込む。
学年が違う駿河 と新名 は既に乗って待っていた。
「ちっ・・・ホームルームが長引きやがった」
「大丈夫ですよ、おやつの時間には間に合いますって〜」
駿河の言葉に、迎えに来た片桐 がエンジンをふかしながら言った。
「間に合わせますし、万が一少し遅れても、ちゃんと待っていてくれますよ」
わかってる。
だが学校ごときで、あの子を待たせたくない。
家に着き、時間に間に合った事に安堵しつつ玄関から入る。
「おかえいなしゃいっ!」
「ただいま、美月 」
走って迎えにきてくれた美月が、俺に飛び付いてくる。
美月、5歳の天使だ。
親父がどこかから連れて帰って来たんだが、俺を含め、榊 家の者たちは美月に完全に魅了されている。
「いい子で待ってたか?今日は何してた?」
「んーね、おーちとね、はしりゅの!」
小さな美月を抱き上げ、家に上がる。
桜鬼 と走ってたんだな。
転ばなかっただろうな?
「よちとあしゃん、おやちゅ!」
「ああ、おやつの時間だな。今日のおやつは?」
「どーなちゅ!」
この舌足らずが異常に可愛い。
まあ、これでも榊家 に来てからだいぶ喋れるようになったんだが。
親父は話さないが、だいぶ悪い環境にいたんだろう。
痣も、まだ少し残っている。
「麗彪 しゃん、駿河 しゃん、時任 しゃん、新名 しゃん、片桐 しゃん、環流 しゃん・・・ぱぱあっ!」
発音練習の一環なのか、美月は俺たちの名前を呼びまくる。
中でも、一番呼びやすいパパは連呼だ。
「ぱぱっ」
「なんだい?」
「えへ。ぱあぱっ」
「はあい」
「ふふふっ」
なんかちょっと、ムカつくな。
「美月、ドーナッツ食べよう。ここ、座れ」
胡座をかいた膝をぱしぱしと叩くと、真っ直ぐ向かって来てちょこんと座ってくれる。
・・・軽いな。
美月には少し大きいドーナッツをひと口台にちぎって、口へ運んでやる。
大きく口を開けて、俺の指ごと食うのが可愛い。
「うまいか?」
「んむっ!」
「お嬢、俺のドーナッツも食べますか?苺味ですよ?」
「たべゆ!」
新名は、目を離すとすぐ美月を何処 かに連れて行こうとするからヤバい。
「美月、ちゃんと昼寝したか?」
「んと・・・おひゆね、ちた!」
時任が美月の昼寝チェックをしてる。
ちゃんと昼寝してない日は、夜にぐずるんだよな。
そうなると、時任がおぶって庭を徘徊するはめになる。
「かちゃぎいしゃ、こえ、あーん」
「いただきます」
美月、なんで片桐にドーナッツ食わせてんだ?、
俺にもやってくれよ。
「麗彪くん、あげ過ぎ。美月ちゃん、もうお腹いっぱいだよね?ごちそうさましよう?」
「ん、ごちしょーたまっ」
美月の体調と食事管理は環流 の仕事だが、俺たちに処置する時と全然対応が違って、丁寧だな。
まあ、当然っちゃあ当然か。
「みっちゃん、まだ庭は行かないよ。食べたばっかだろう?」
「そうだぞ。走ったら気持ち悪くなるから、まだ座ってろ」
「あいっ」
美月を抱いたまま、ごろっと横になる。
俺の腹の上に跨って、きゃっきゃ言ってるのも可愛い。
大きくなったらとんでもない美人になるんだろうな。
ずっとこうして笑っててくれる様に、俺が護ってやらねぇと。
このまま、俺の腕の中で、大事に・・・。
───────
「麗彪さんっ、おーはーよっ」
「・・・んんー・・・え・・・?いつの間に育ったんだ、美月・・・」
「育った?」
俺の腹の上に跨る美月が、5歳じゃなくなった。
やっぱ、美人に成長したな。
「美月、何歳?」
「え?・・・っと、16歳?」
小首を傾 げながら答える美月。
だよな。
「知ってる」
「もおっ、なんで聞いたのぉ?」
5歳でも16歳でも、美月は可愛い。
それでも、今見た夢が現実だったら、お前が苦痛を味わう年月がもっと短かったらと、思わずにはいられないんだ。
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