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付いて行っちゃいけません

麗彪(よしとら)side】 会合が終わって(さかき)家に帰ったら、片桐(かたぎり)から留守中にあった美月(みつき)の誘拐騒ぎを聞いた。 ぶちギレそうになったが、膝の上には美月。 片桐め、穏便に済ませようとしてやがるな。 「美月、恐い思いさせたな。大丈夫だったか?」 「恐い?どおして?」 「知らないヤツに連れて行かれそうになったろ?恐くなかったか?」 「桜鬼(おうき)とかくれんぼしてて、見つからないとこに連れてってくれるって言ってたから、恐くなかったよ?」 「・・・そうか」 どうやらかくれんぼの延長だと思ってるらしい。 新名(にいな)の時みたいにはならなかったみたいで、良かったと言うべきか・・・。 ・・・まあ、新入りどもには藤堂(とうどう)からしっかり教育させるとして、問題は・・・。 「あのな美月、大事な事を言うぞ」 「うん?」 「知らない人には絶対に付いて行っちゃいけません」 「お(うち)の中でも?」 そうか、庭もお家の中っちゃ中か。 「そうだ。知ってるヤツでも俺がいいって言ってないヤツはだめだ」 「付いて行っていい人は?」 「俺、駿河(するが)時任(ときとう)、片桐、カンナ・・・と環流(めぐる)、あとは・・・新名(にいな)もいいぞ」 俺の指示なしで美月を連れて行くのを許せるのはこの6人だ。 美月がこてん、と首を傾げて聞いてきた。 「ぱぱは?」 「だめ。前にも親父には絶対に付いて行くなって言ったろ?」 「そおだっけ」 覚えてる癖に、シラを切るつもりか。 親父に懐き過ぎだな。 「なんだあ?俺にはみっちゃん任せられねえって?」 「ぱぱっ」 「そーだ、パパには任せられません。付いてったらだめだからな」 「まあ、俺が動かなきゃならない事態にしなきゃいい話しかあ」 そうだよ、わかってんじゃねぇか。 親父が居るなら、美月を連れ出さなきゃならない緊急事態になんてならねぇだろ。 だから、付いて行くんじゃなくて、傍に居りゃいいだけだ。 「みっちゃんはパパと一緒なら、何処へも行かねえよなあ。ずっと一緒に遊んでるもんなあ」 「うんっ!ぱぱのとこにいるっ」 ずっと、じゃねぇからな? 「美月は俺と一緒に帰るだろ。ほら、とらきち連れて来い。どっかで飯食って帰ろう。何が食べたい?」 「えっ・・・えっと、どおしよ、待って、考えるからっ」 そう言って、部屋にとらきちを取りに行く美月。 その後をさり気なく新名が付いて行った。 昼間、新入りに腕を掴まれた美月を見たのが新名(あいつ)でなく片桐で良かったかもな。 新名が見てたら、俺が帰る前に新入りはどっかに埋まってただろ。 「藤堂」 「はい」 「みっちゃんが泣かなくて良かったなあ。泣かしてたら、新入りもお前もただじゃ済まなかったぞ。命拾いしたなあ」 「・・・はいっ、すみませんっ!」 親父が藤堂を叱るなんて、珍しい事もあるもんだ。 美月があんなに親父に懐くのは、親父が美月を何よりも大切にしてるのが伝わってるからなのかもな。 「ま、一番可愛がって大事にしてんのは、俺だけどな」 「あ?なんか言ったか、麗彪」 「何でもねーよ」 とらきちを抱えて戻って来た美月に、親父へ向かってバイバイを言わせて、手を繋ぎ実家を後にする。 美月のリクエストは茶碗蒸し。 ほんと好きだな。 駿河(するが)が即行で料亭の予約を取り、片桐の運転で向かった。

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