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笑う絶望

麗彪(よしとら)side】 悪夢を見たんだろう。 泣き叫びながら飛び起きた美月(みつき)を抱きしめて、なんとか寝かしつけた。 いつまで付き纏う気だ。 15年も苦しめてきて、まだ足りねぇのかよ。 やっぱり、そのままにしておけねぇ。 「生きてるのか?」 「・・・誰がだ?」 「檻を作ったやつだ」 「忘れろっつったろ」 俺はそれでもいい。 だが、美月は。 「美月が夢でそいつに苦しめられてる。夢にも現れないように消してくれ」 「・・・無茶言いやがる」 今日は仕事だと言って、親父の所へ来た。 美月には駿河(するが)片桐(かたぎり)新名(にいな)を付けて。 「親父でも無理なのか?」 「無茶とは言ったが無理とは言ってねえよ」 「なら・・・頼む」 俺から親父に頭を下げて頼み事なんて、覚えてる限り初めてだ。 「無理じゃないんだがなあ・・・夢の方は俺より、お前が対処した方がいいんじゃねえか。俺が消してやったら、みっちゃん俺のモンになっちまうぞ?」 「・・・それは嫌だ」 「だろ?」 こんな親父だが、俺では絶対に敵わないとわかっている。 俺に出来ない事も、やってのける凄い人だ。 普段、俺は親父を馬鹿にした様に振る舞っている。 だが、俺にとって絶対的な存在なんだ。 「檻は焼いたが、母親は生かしてある」 「っ!?」 生きてんのか。 どのツラ下げて生きてんだ・・・まさかいい暮らしなんかしてねぇよな・・・どこにいんだ・・・なにしてんだ・・・どんなツラしてんだ・・・なあ、美月を殴った手はまだ付いてるか・・・? 「麗彪」 「・・・殺す」 「そりゃ俺の役目だ。お前は夢の方を片付けろ」 「なら、俺じゃないなら新名に・・・っ」 簡単に楽になんてさせねぇ。 15年分の・・・それ以上の苦しみを味合わせてやる・・・新名なら俺以上にそれを・・・。 「落ち着け。ちゃあんと、俺が()ってやるから」 「・・・・・・親父、が・・・?」 一番近くで、跡取りとして親父を見てきた。 表の顔も裏の顔も、全部見てきたはずだ。 その息子()も見た事がない、見ただけで魂を削ぎ取られる様な、静かで底のない絶望が、笑った。 「さあほら、わかったらみっちゃんとこ帰れ。あ、土産にお菓子持ってけよ。みっちゃん好きそうだったから買ってきたんだ」 いつもの親父だ。 さっき見たのは、何だった? 人間ですらない様な・・・。 「・・・時任(ときとう)、息してるか?」 「・・・なんとか、生きてます」 俺の斜め後ろに座っていた時任も見てたよな。 「なんだい、さっちゃんまで。バケモンでも見た様な顔してないで、これ持ってよっちゃん連れて帰りなさい。あ、今度またみっちゃんとデートさせてくれよ」 「・・・わかった」 「・・・わかりました」 ふわふわ肉球フィナンシェを持たされ、俺と時任は(さかき)家を後にした。

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