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永遠にさよなら
【美月 side】
ふわふわ、肉球フィナンシェ。
プレーン、チョコ、イチゴ、抹茶、レモン。
ぱぱが買ったの、麗彪 さんがもらってきてくれた。
ぼくは、イチゴ味食べよ。
「なあ、美月」
「ん?」
「話したい事があるんだ」
お口の中のフィナンシェを飲み込んで、麗彪さんの方を向く。
「なあに?」
「聞くの嫌かもしれないけど、聞いてくれるか?」
「麗彪さんのお話なら、やじゃないよ?」
「そうか・・・でも、たぶん嫌な話だ。ごめんな」
聞くのが嫌なお話って、なに?
もしかして麗彪さん、幽霊が怖いのに、怖い話するの?
だからそんな、怖がってる顔、してるの?
「麗彪さんも、やだったら、話さなくていいよ?」
「ああ・・・でも、話しておきたい。もう恐くなくなる様に」
「・・・わかった」
麗彪さんはソファに座って、ぼくを向かい合わせで膝の上に座らせた。
駿河 さんと片桐 さんと新名 さんは、麗彪さんと帰ってきた時任 さんに呼ばれて、ダイニングテーブルの方に行ってる。
リビングには、ぼくと麗彪さんの2人だけ。
「あのな、美月の・・・オカアサンの話なんだ」
おかあさん・・・。
麗彪さんのとこに来て、麗彪さんたちに優しくしてもらって、だんだん忘れてたのに、夢でまた戻ってきた。
なんで、そのお話するの?
夢じゃなくて、現実で、戻ってきたの?
ぼく、また、あのおうちに、行かなきゃいけない?
・・・やだ。
ぼく、このお話、聞きたくない・・・。
「・・・ゃ・・・だ・・・」
「ごめんっ、そうだよな、嫌だよな。聞きたくないよな・・・」
「・・・もど・・・た・・・なぃ・・・っ」
いたいさむいくらいいたいいたいいたい・・・っ!
からだが、がくがくする。
いき、できない。
なに、これ、なんで・・・。
「美月!大丈夫だ、戻ったりしない。ここが美月の家で、美月は俺が護る。どこにも行かせない。大丈夫、もう恐い事なんて起こらない。もう恐がらなくていい・・・!」
・・・そっか、なんでなのか、わかった。
ぼくは・・・。
「おか・・・さ・・・こわ"い"っ!」
「ああ、恐かったよな。でももう大丈夫だ。俺がいる。俺だけじゃなく、美月を護るためにみんないるから。恐かったな・・・ごめんな、もっと早く助けてやれなくて・・・」
麗彪さんにしがみ付いて、わああーって大きな声で泣いた。
ぼくは、おかあさんが、恐い。
やっとわかった。
体ががくがくするのも、手が冷たくなるのも、息ができなくなるのも、ぎゅってしゃがんで小さくなるのも・・・全部、おかあさんが恐いからだったんだ。
「・・・い、ぃの・・・?・・・ぉが・・・さ、こわ・・・い・・・いって・・・」
「いいんだよ、恐いって言っていい。オカアサンは恐い。美月にずっと酷い事をしてた。美月が恐いモノは俺が消すから、教えてくれ。美月が恐いモノから、美月を護らせてくれ」
麗彪さんは幽霊が怖いから、ぼくが守らなきゃって思ってた。
それと同じ?
ぼくはおかあさんが恐いから、麗彪さんが守ってくれるの?
「麗彪さん・・・ぼく・・・っ、おか、さん・・・恐い・・・っ、も・・・会いたく、ないっ・・・おかあさんのとこ、行きたくないっ!」
「わかってる。オカアサンにはもう会わない。オカアサンはもう、どこにも居ないんだ。前に居た家も、もうない」
おかあさん、いない?
あのおうちも、もおない?
ほんと・・・?
「オカアサンは遠い所に行ったんだ。逝 ったら絶対に戻って来られない所に。だからもう絶対に会わない」
「・・・ほ・・・んと・・・?」
「本当だ。オカアサンは戻ってこない。美月も戻らない。永遠にさよならだ」
最後に会った時、おかあさんは「じゃあね」って言った。
おうちを出る時、たまに言ってた言葉だったから、また帰ってくるって思ってた。
でも、あれは、本当にさよならの「じゃあね」だったんだ。
もお、戻ってこない・・・。
「よか・・・た・・・も・・・もどって・・・こない・・・」
「ああ、戻ってこない」
「じゃ、ぼく、これからもずっと、麗彪さんといっしょ?」
「一緒だ。俺は美月を放さない。美月は俺の嫁だから、一生一緒だ。誓いのキスもしただろ?」
麗彪さんが、両手でぼくのほっぺたを撫でる。
涙を拭いて、ちゅっちゅって、いっぱいキスしてくれて、何度も「もう大丈夫」って言ってくれた。
もう大丈夫。
麗彪さんがいるから、麗彪さんとずっといっしょだから。
ぼくはもう、大丈夫。
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