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お子様ランチと子供舌
【麗彪 side】
オカアサンが恐いと認めた美月 が、どんな夢を見たのか、どんな気持ちだったのか、俺にちゃんと話してくれた。
声を詰まらせる度に「大丈夫、俺が護る」と言い聞かせながら、二度とそんな思いはさせないと心に誓う。
「・・・でも、もお、戻って来ないんだよね」
「ああ。もう絶対に戻って来ないし、二度と会わない」
「・・・わかった」
やっと、笑ってくれた。
泣き腫らして、真っ赤になった大きな目が痛々しい。
「麗彪さん、これ美月の目元にあててください」
「おお」
時任 が冷水で絞 ったタオルを持ってきた。
向かい合わせにしていた美月を横抱きにし、俺に寄り掛からせて目元にタオルをあてる。
「つめたい」
「ちょっと我慢な」
「ん・・・きもちぃ・・・」
「お嬢、喉渇いてませんか?リンゴジュース飲みますか?」
「ありがと」
今度は新名 が、グラスに入れたリンゴジュースをストローで美月に飲ませる。
・・・おい、なんでお前まで目ぇ赤くしてんだよ。
「美月くん、夕飯はなにが食べたいですか?何でも好きなもの用意しますよ」
片桐 に聞かれ、目元にタオルをあてたまま考える美月。
「んっと・・・ハンバーグ・・・と、エビフライ・・・あと、プリンも、いいですか?」
「もちろんです」
晩飯はお子様ランチだな。
「俺エビ買ってきま〜すっ!」
駿河 がダッシュで買い物へ行き、片桐がキッチンでハンバーグの下拵 えを始めた。
時任はプリンを担当するらしい。
オカンがキッチンに立つ時は、片桐や新名は入らない様にしてたんだが、今日は特別か。
・・・もっと広いキッチンの方がいいのか?
いっその事、一軒家建てて引っ越すか・・・いや、セキュリティ的に微妙だな・・・。
「麗彪さん」
「ん?」
「目、じんじんしてきた」
「冷やし過ぎたか、ごめん」
タオルをどかし、冷たくなった美月の目元に手をあてる。
タオルを持ってた方じゃない左手だから、美月の目元の冷たさがよくわかった。
「麗彪さんの手、あったかぁい」
「美月が冷え過ぎてんだ」
「お嬢、俺の方が麗彪さんより体温高いですよ!俺の手も試してみませんか?」
「んふふっ、あったかあい」
新名が両手で美月の頬に触る。
ちょっと前なら叩き落としてたとこだが、俺も新名に甘くなったな・・・。
美月を護る手は多いに越した事はねぇし。
それから、駿河がデカいエビとさくらんぼ、ホイップクリームを買って帰って来た。
なんでさくらんぼ、と思ったが、プリンの上にのせるらしい。
片桐がハンバーグ焼いてる横で、時任がバターチキンオムライスを作り、エビフライを揚げ、サラダも付けて、晩飯なのに完璧なお子様ランチが出来上がった。
「美味しいっ!」
うん、旨い。
美月と暮らし始めて気付いた事がある。
俺も含め、ここに居る全員、意外と子供舌だったんだよな。
まあ、美月が嬉しそうだから、なんだっていい。
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