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頼み
【美月 side】
これは夢だ。
現実じゃない。
だってもう、あの部屋はないって言ってたもん。
戻ってこないって、言ってたもん。
だから、ここはぼくがいる場所じゃない。
待ってなくて、いいんだ。
ドアが開いて、帰ってくるのを待ってなくていい。
こんなところに、いなくていいんだ。
「麗彪 さんっ」
「ん?起きたか?」
麗彪さんの声が、頭の上から聞こえた。
あ、そおだ、ぼく、麗彪さんの膝の上で・・・。
「寝ちゃってた・・・」
「寝てたな」
「・・・へへ」
麗彪さんは、お仕事してたみたい。
ノートパソコン、ぱたんって閉じた。
お仕事、終わったの?
「じゃましちゃった?」
「美月が邪魔になる事なんてない。美月以外が邪魔なんだ」
「それは俺が邪魔って事ですか〜?こお〜んなに献身的に尽くしてるのに〜」
「うるせぇよ」
駿河 さんが、麗彪さんのコーヒーと、ぼくにミルクティー持ってきてくれて、ノートパソコンを持っていった。
あ、お仕事終わりでいいんだ。
ミルクティー、おいしい。
「なあ美月、ちょっと頼みがあるんだけど」
「たのみ・・・?ぼくに?なに?なんでもするっ!」
麗彪さんからぼくに頼みなんて、初めてだよね?
ぼく、麗彪さんの役に立ちたいってずっと思ってた。
だから嬉しいっ!
「その・・・パーティーがあるんだ。一緒に来てくれるか?」
「ぱーてぃ・・・パーティー!?行くっ!麗彪さんと恋人になるのぼくだもんっ!他の女の人と麗彪さんがお付き合いなんてやだもんっ!」
「お付き合い?」
前に、麗彪さんがパーティーに行って、ぼくはお留守番だったけど、後から駿河さんと追っかけて行った事あった。
・・・あ、そおだ、その時、お姫様にしてもらったんだった。
また、お姫様のかっこ、するのかな。
「あ、前にパーティー行った時、美月くんが辞書で色々調べてて・・・ちょ〜っと混乱しちゃったみたいですけど、まあ結果オーライって事でちゃんと説明してませんでした〜」
「混乱?美月 がいる俺がなんで他の女と付き合わなきゃいけねぇんだよ」
「それがですね〜・・・」
「美月くん、クッキー食べますか?」
「ありがと、片桐 さん」
駿河さんが麗彪さんに、なんか説明してる間に、片桐さんとクッキー食べながらミルクティー飲んだ。
これ、片桐さんといっしょに作ったやつ。
おいしくできたから、麗彪さんにも食べてもらお。
「・・・ああ、それでドレス着て来てくれたのか」
「麗彪さん、あーん」
「あー・・・ん、美味 い。・・・じゃあまた美月に似合うドレス用意してくれ」
「既に手配済みで〜す。今回は春なので、桜の妖精をイメージしたドレスを選んでみました〜」
「口紅は変な味しないやつにしてやってくれ」
「あ、メイクはカンナが担当なんで、そこも大丈夫だと思いますよ〜」
くちべに・・・赤いのじゃなかったら大丈夫だよ。
赤いのは・・・。
「赤いの、恐い」
「赤は絶対だめだ」
「あ、それもカンナは把握済みです。自分のも処分したらしいですよ〜」
処分って、捨てちゃったって事?
カンナさん、ぼくが赤いのやだって、わかってたんだ・・・。
「カンナさん、赤いの好きだったかな・・・ぼくのせいで・・・」
「美月が嫌いな物はカンナも嫌いだから大丈夫だ。本人もそう言ってたからな」
「ほんと?」
そおだ、前にカンナさんが、いっしょにお化粧してお姫様ごっこやろって言ってたんだった。
カンナさん来たら、お姫様ごっこやろって、言ってみよう。
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