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大人になるには2段階

麗彪(よしとら)side】 今日は表の仕事関係でパーティーに出席する。 ・・・嫌いなんだよな。 だが今回は違う。 可愛いお姫様が一緒だからだ。 「美月(みつき)、絶対に俺から離れるなよ?」 「うん」 「自己紹介は?」 「(さかき)美月です。麗彪さんの妻です」 「最高・・・!」 美月と揃いの指輪をする様になってから、それに気付いたやつには結婚したと言ってある。 パーティーに来るやつの中には知らない人間もいるだろうから、ここで美月の存在をオープンにしてしまおうと思う。 「ねえねえ、パーティー、チョコレートファウンテンある?」 「ありますよ〜。事前にチェックしておきましたから」 「やったあ!」 メンバーは前回と同じ、俺と美月と駿河(するが)時任(ときとう)。 俺が仕事の話で美月の傍を離れる時は、時任が美月に付く事になっている。 時任を前にして美月に声をかける命知らずはいないだろう。 会場に入ってすぐ、わらわらと人が寄ってきた。 どいつも視線の先は美月だ。 胸糞悪い。 「そちらが、その・・・」 「ええ、妻です」 「初めまして、榊美月です。夫がお世話になっております」 駿河が前もって会話のテンプレを教えていたが、さすが賢い美月はなんなくこなしてくれる。 「昨年のパーティーでもお見かけしたと思いますが、もしかしてその頃から?」 「ええ、お付き合いさせていただいておりました」 「失礼、そろそろ乾杯なので、妻と飲み物を取ってきます」 飲み物は駿河が持ってくるから、ただの口実だ。 美月の手を引いて、会場の後ろの方へ移動する。 「美月、大丈夫か?」 「うん、大丈夫だよ」 「腹減ってるよな。ごめん、もうちょっと待てるか?」 「ふふ、平気。あそこにチョコレートファウンテンあったよ」 「それはご飯の後な」 時任を壁代わりにして、美月の様子を確認する。 意外と肝が座ってるみたいで、受け応えも堂々としていたし、笑顔も自然だ。 少しでも疲れたり、居心地悪そうにしてたら即帰ろうと思ってたんだが・・・。 「奥様、お飲み物をお待ちいたしました」 「ありがと、駿河さん」 「それなんだ?」 「ノンアルのシャンパンです。麗彪さんも同じのにします?」 「ああ」 美月を護るためにも、シラフでいたい。 それに、美月に飲ませる物の味を確認しておきたいし。 「ノンアルってなに?」 「ノンアルコール。酒が入ってない飲み物だ」 「お酒はあと2年しないと飲めないもんね」 「いや、あと4年だぞ」 あと2年で成人だが、飲酒は20歳になってからだ。 自分はそんな事気にもしなかったのに、美月にはしっかり守らせようとしてるのに我ながら呆れる。 「大人になったら飲めるって言ってたのに」 「大人になるには2段階あるんだ」 「にだんかい・・・」 少しがっかりした様な美月を(なだ)めつつ、乾杯の挨拶を聞き流してから、美月と一緒にノンアルのシャンパンに口を付ける。 ・・・意外と美味(うま)いな。 「飲めそうか?」 「ん。ちょっと苦いけど、飲める」 「奥様、お口直しにこちらをどうぞ」 駿河がさり気なく、ちょっと苦いノンアルシャンパンのグラスを別のグラスに交換する。 そっちはなんだ? 「リンゴジュースです。麗彪さんも飲みます?」 「いや、いい」 美月がこくこくと美味(うま)そうに飲んでるのを見る限り、合格だろう。 たぶん、美月に飲ませる前に、駿河が同じ物を味見してるはずだしな。 「みつ・・・奥様、こちらをどうぞ」 時任、今いつも通り美月って呼びそうになったな。 キッシュとローストビーフ、ニョッキを盛り付けた皿を差し出し、フォークだけ美月に持たせた。 皿が大きいから、そのまま時任が持ってるつもりなんだろう。 今日は立食パーティーで、座る場所もあまりない。 美月が嫌がったら椅子を用意させようとも思ったが、立って食べるという普段と違う食事が珍しいらしく、本人は座らないで食べたいと言っていた。 「麗彪さんは自分で持てますね」 「おう」 俺の分も持ってきたのか。 気がきく・・・いや違うな、こっちの皿もたぶん美月のために持ってきたんだ。 美月が好きそうな料理しか盛ってない。 美月が食べきれない分を食え・・・って事か。 「麗彪さん、これおいしい!あーんして?」 「あー・・・ん。んん、美味い」 俺はこうやって、優しい美月に食わせてもらえるから、大満足だけどな。

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