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ボートと世界
【麗彪 side】
美月 を助手席に乗せ、高速で約2時間。
目的のリゾートホテルに到着した。
駐車場に車を停め、ラウンジでチェックインを済ませる。
荷物は少ないし、案内も必要ないから断って、美月と手を繋いで部屋へ。
「わあっ!ねえ、あれ海?」
「湖だ」
「みずうみ・・・あっ、湖!大きな水たまり!」
確かに、大きな水たまりだな。
ああ、辞書にそう書いてあんのか。
「泳ぐ?」
「まだ寒いから泳がない。でもボートに乗れるぞ」
「ぼーと・・・あ、小さい船だっけ?・・・あっ!あれ?」
窓から見える湖には、いくつかボートが浮かんでいた。
美月は窓にへばり付き、興味津々に眺めている。
「そ、あのボート。自分で漕ぐんだ」
「自分でこぐ?」
ここからじゃ、ボート乗ってるやつが何してるかわからないか。
どう伝えれば・・・。
「オールっての持って、こう動かすと、ボートが進む・・・はず」
「はず?」
俺も、自分で漕ぐボートなんて乗った事ねぇしな。
美月は俺の動きを真似して、真剣な顔で腕を曲げ伸ばししてる。
でも、それでどうボートが動くのか理解出来なかったのか、真剣な顔のまま小首を傾げた。
くっそ可愛い。
「ははっ、まあやってみりゃわかるだろ。俺も初めてだから、一緒に頑張ろうな」
「麗彪さんも初めて?いっしょに初めて嬉しいっ!」
窓から離れ、俺に抱き付いてくる美月。
ぎゅっと抱きしめ返して、腕の中に閉じ込める。
「・・・あっ!」
「ん?」
「これするんだった。麗彪さん、こっち来て」
美月に手を引かれ、ソファに座る。
俺の膝を跨いだ状態でソファの上に膝立ちした美月が、俺の頭を胸元に抱き込んだ。
・・・なんだこれ、最高なんだが。
「こおやってすれば、麗彪さんの世界がぼくだけになるかなって、思って」
確かに。
視界も、匂いも、触れるものも、聞こえるのも、美月だけだ。
「・・・んー・・・良い気分だ・・・」
「ほんと?ぼくね、麗彪さんにこうやってぎゅーしてもらうと、ぼくの世界が麗彪さんだけになって幸せだから、麗彪さんもそおなってくれたらいいなって・・・わっ!?」
美月の胸に顔を埋めたまま、美月を抱いて立ち上がる。
そんな事考えてたのか。
いいな、美月の世界が俺だけって。
このまま隣の寝室へ行こう。
前見えねぇけど。
「美月、寝室どっちだ?」
「ふぇ?えと・・・あっち・・・えっと、右・・・あっ、もおちょっと左・・・まっすぐ・・・あっ、止まってぇ」
わざと美月の指示から少し外れるように部屋を歩き回る。
美月は自分の後ろを振り返りながら指示を出してるから、めちゃくちゃ慌ててる。
壁にぶつかりそうになると、俺の頭をぎゅうっと強く抱く。
なんだこれ、すげー楽しいな。
「なんでっ、反対だよっ、あ、そおそっち・・・ああっ!どおしてぇっ」
「くっ・・・はははっ」
慌てる美月が可愛過ぎる。
暫 くそうやって遊んでから、寝室に入った。
昼飯には少し早いし、ベッドの上で俺の世界を美月だけにしてもらって、そのまま2人で眠った。
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