172 / 300

⭐︎番外編⭐︎新名の寝かし付け

新名(にいな)side】 今夜は麗彪(よしとら)さんが帰って来ない。 お嬢と俺と、片桐(かたぎり)の3人で留守番だ。 寝かし付けは俺がする事になった。 「お嬢、そろそろ寝ますか?」 「・・・んぇ・・・まだぁ・・・」 お嬢はお気に入りの世界動物大図鑑を見ていたが、6分前から同じページをぼーっと眺めていた。 6分中、4分は目を瞑っていたけど。 「もう寝ましょう。抱っこしてもいいですか?」 「・・・んー・・・」 あ、このままだと図鑑の上に倒れ込んでしまう。 抱き止めて、自分の胸に寄せ、お嬢の両膝裏に腕を差し入れ抱き上げる。 ・・・軽いなぁ。 「ベッド、行きましょうね」 「・・・にぃ・・・なさ・・・」 「なんですか?」 「・・・あか・・・ぎつねぇ・・・」 「アカギツネ?」 「・・・ちべ・・・と・・・すな・・・・・・」 あ、寝た。 ちべと、すな? ・・・ああ、チベットスナギツネか。 「寝かせてきます」 「はい。おやすみなさい」 リビングで読書をしていた片桐に声をかけ、寝室へ向かう。 麗彪さんのベッドを使うのは躊躇(ためら)われるので、片桐の部屋だ。 お嬢を寝かせて、その隣に自分も横になる。 悪夢を見たり、夜中に目が覚めてしまった時、すぐ対応できる様に添い寝の許可が出た。 子ども体温のお嬢と同じベッドに入ると、想像していた以上に心地良い。 お嬢の頬にかかった髪を指で後ろへ流し、柔らかいほっぺに触れる。 (みつ)を寝かし付けた事があったが、こんなに安心できる環境じゃなかった。 真っ暗な押入れの中で、もし見つかっても妹の存在に気付かれない様に、抱え込んで自分の身体で隠して。 俺は眠らず、何があっても妹を護れる様に、僅かな物音も聞き漏らさない様に、気を張ってたな。 「・・・ん・・・ふぇね・・・くぅ・・・」 今はこうして、可愛い寝言だけ聞いていればいい。 万が一何かあっても、片桐が起きていて対応するから、俺はお嬢と一緒に眠っていればいいんだ。 こんな心地良い時間が手に入るとは、思ってなかった。 妹を失って壊れた俺は、この手を血で染めて、堕ちるとこまで堕ちきって、真っ暗な闇の中で手当たり次第にナニかを壊して、そこで死ぬんだと思ってたのに。 お嬢が、こんなに暖かい場所で、俺を生かしてくれる。 「ありがとうございます、お嬢」 「・・・んふ・・・にぃなさ・・・し・・・ぽぉ・・・」 「・・・尻尾?」 お望みなら、生やしますよ、尻尾。 お嬢が笑ってくれるから、俺もちゃんと笑えてるんです。 「はぁー・・・、あったか・・・」 これ、朝、起きられるのか? 麗彪さんがよく寝坊する理由、わかった気がする・・・。

ともだちにシェアしよう!