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⭐︎番外編⭐︎片桐の寝かし付け
【片桐 side】
遊んでいるうちに眠ってしまった美月 くんを抱っこして、自分のベッドに寝かせてから1時間程経った頃だった。
穏やかだった寝息が、少し不規則になってきたので心配になり顔を覗き込んだら、ぱちっと目を開けて私を見る。
「美月く・・・」
「ふぇ・・・」
瞳が潤み、切なそうな顔をして、泣き出してしまった。
まさか、私が当番の時に悪夢を見せてしまうとは・・・。
今夜に限って、私と美月くんの2人きりで留守番だというのに。
「大丈夫ですよ、恐いものはここにはいません。大丈夫・・・」
「もんすたっ、とらっくがぁ・・・ぼくのけぇきたべたぁ・・・っ」
「・・・はい?」
思っていた悪夢とは違う様だ。
しかも美月くん、半分寝てますね。
「よしよし、ケーキなら何でも好きなの作りますから、モンスタートラックは赦してあげましょうね。どんなケーキがいいですか?苺のにしますか?チョコのにしますか?」
無意識なのか、麗彪 さんと間違えてなのか、私に向かって両手を伸ばす美月くんを抱き上げて、背中を摩 ってあげながら寝室の中をゆっくり歩く。
美月くんは16歳なので、本来であればこんなあやし方は間違っているのだろう。
しかし彼が不安定になると、麗彪さんも含め私たちはどうしても幼児扱いをしてしまいがちだ。
「・・・んぅ・・・ふ・・・ぅう・・・っ、いちごぉ」
やっぱり、美月くんは苺が好きだな。
キッチンの冷蔵庫には常に苺が入っているから、要望には問題なく応えられる。
「苺のケーキですね。いっぱい苺のせますから、楽しみにしててください」
「・・・かたぎりさぁん・・・っ」
「はぁい」
麗彪さんと間違えていた訳ではないらしい。
私にも、寝ぼけているとは言え甘えてくれるのは嬉しい限りだ。
「ぼくもぉ・・・けぇき・・・つくゆ・・・・・・」
泣き止んで、眠ってくれた様だ。
美月くんを抱っこしたまま洗面所へ行き、濡らしたハンドタオルを片手で絞って再び寝室へ。
ベッドに寝かせ、目元をタオルでそっと拭う。
擦 ると赤くなってしまうので、丁寧に。
・・・モンスタートラック?
ああ、雅彪さんからの誕生日プレゼントか。
あれが、ケーキを食べた、と。
「・・・ふ」
思わず笑ってしまう。
随分と可愛らしい悪夢を見たんだな。
いやしかし、美月くんにとっては泣く程の悪夢だ。
念の為、麗彪さんが帰ったら報告しておこう。
「おや」
タオルを片付けに行こうとしたら、シャツの裾を掴まれている事に気付いた。
これ、私にもやってくれるんですね・・・。
タオルは取り敢えずベッドボードに放り、美月くんの隣に横になる。
美月くんの前髪を指で梳 き、そのまま頭を撫でると、さらさらなのにふわふわと柔らかな撫で心地。
最初は、頭の上に手を上げただけで怯えてパニックになっていたらしいが、今はそんな事もなく、撫でると猫の様に甘えてさえくれる。
「良い夢を・・・」
「・・・んー・・・そっちはぁ・・・じゃっかるぅ・・・こよぉて・・・こっちぃ・・・」
「・・・ふふっ」
さすが美月くん、ジャッカルとコヨーテの見分けが出来るとは。
明日の朝起きたら、2匹の違いを教えてくださいね。
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