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美月の唯一

麗彪(よしとら)side】 久しぶりに美月(みつき)と2人きりで過ごし、美月を堪能し、美月を構い倒してから帰ってきた。 有意義な休暇だったな。 「お嬢、お帰りなさい。麗彪さんのお世話、お疲れ様でした」 マンションの部屋に帰ったら、新名(にいな)が下の部屋からすぐやって来た。 なんで帰って来たってわかっ・・・ああ、見守りカメラか。 駿河(するが)時任(ときとう)片桐(かたぎり)は出掛けていて、そろそろ帰ってくるはずだ。 「ただいま新名さん。麗彪さん、いい子にしてたよ?ボートぐるぐるしちゃって、オール落ちないのに、落ちないって教えてくれなかったけど」 「そうですか。総合的に言って、麗彪さんは悪い子ですね」 何を総合的に言ってんだよ。 それより美月、俺は本当にいい子にしてたか? また噛み痕付けられた癖に。 「美月、風呂入ったら薬塗ろうな」 「うん」 「また噛んだんですか?全くいい子になんてしてないじゃないですか!」 だろ? だが「噛んで」とねだってきたのは美月だぞ。 「美月が噛んでってねだったんだよなぁ?」 「んー?うん」 「俺より悪い子だよなぁ?」 「んー?んふふっ」 可愛く笑ってるけど、否定はしないんだな。 天使が小悪魔に進化したか? 「ただいま帰りました」 「あっ、片桐さんお帰りなさい」 「美月くんも、お帰りなさい」 おい美月、さっきまでずっと俺にべったりだったのに、片桐が帰ってきたら片桐に付いてキッチンに行くの、なんでだ? もう俺に飽きたのか? 「美月ぃ、俺を捨てるのかぁ?」 「えっ?捨てないよ!麗彪さんの事、捨てたりしないっ!」 ソファに座ってる俺のとこまで戻って来て、がばっと抱きついてくる。 いい気分だ。 「麗彪さん、まだ足りないんですか?」 「美月はいくらでも喰える」 「やめてくださいお嬢が減ります」 減らないように色々食べさせてるだろ。 それでもなかなか体重が増えないんだけどな。 「駿河さんと時任さん、まだ帰ってこないの?」 「美月、俺以外を気にするな」 「もぉ、麗彪さん、たまにわがまま」 「美月くん、麗彪さんの我儘はたまにじゃないですよ」 コーヒーと、美月のミルクティーを淹れて持ってきた片桐が俺の文句を言った。 いいのか、そんな事言って。 本当の我儘ってやつを言ってやってもいいんだぞ? 「ただいま〜」 ああ、駿河と時任が帰って来たな。 美月が俺からぱっと離れて玄関に向かう。 だから、行くなって。 「お帰りなさい!」 「美月くんもお帰りなさ〜い。麗彪さんと2人きりで大変じゃなかったですか〜?」 「大変じゃないですよ?」 「美月、土産買ってきたぞ」 「わあっ、ありがと時任さんっ!」 時任め、美月を土産で釣るんじゃねぇよ。 何買って来たんだ? 「麗彪さん、時任さんと駿河さんがお土産買ってきてくれたよ!食べよ?」 「ああ。どこ行ってたんだ?」 「温泉で〜す」 時任が緑茶を淹れ、6人で土産の温泉まんじゅうを食べる。 美月はまんじゅうでもミルクティーを飲む。 それを知っているから、時任は緑茶を4つしか用意しなかった。 ・・・俺はコーヒーでまんじゅうを食えと? 「ねえ、麗彪さん」 「ん?」 「みんなといっしょにお(うち)にいるの、いいね」 「・・・そうだな」 返事をしたら、美月が俺の耳元に唇を寄せて囁いた。 「でもね、ぼく麗彪さんと2人きりが、一番好きだよ」 この優越感と多幸感があるから、美月の唯一であり続けたいと、思うんだ。

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