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返事をしろ

麗彪(よしとら)side】 なんでだ。 なんで、こんな事になった。 「いません!」 「あっちは!?」 「新名(にいな)が行ってます!私はもう一度建物内を!」 「俺は向こうを見てくる!」 嘘だろ。 そんな訳ない。 いなくなるなんて、そんなはずない。 「美月(みつき)───っ!!」 美月と俺と、時任(ときとう)片桐(かたぎり)、新名の5人で遊園地に来ていた。 そんなに大きくない、乗り物なんかも子供向けが多い遊園地だ。 美月が興味を示した順に乗って、こまめに休憩して、平日で人も少ないからほぼ貸切りだし、美月も自由に走り回ってて・・・。 ほんの一瞬、目を離した隙に、俺の世界は真っ暗になった。 「麗彪さん!出口には誰も来てないそうです!まだ園内にいるはずです!」 走って来た片桐の報告通りなら、美月が自力もしくは誰かに連れられて遊園地を出てはいない。 園内(ここ)にいるはずだ。 「マップにあるトイレは男女どっちも確認しました!従業員用の建屋や通路も確認させてます!」 新名も走って戻って来て、従業員にも捜索を依頼したと報告してくる。 美月が自力でそんな所に入るとは思えなくても、全ての可能性を確認するべきだ。 「時任は!?」 「動いてる乗り物に乗っていないか確認してます!私はもう一度ショップを確認してきます!」 「俺はレストランを!」 2人が別々の方向へ走って行き、俺は途方に暮れそうになるのを(こら)えて走り出す。 さっき、美月を見失った場所に。 「美月!」 賢い美月なら、はぐれた場所に戻って待ってるかもしれない。 そんな淡い期待は裏切られ、呼び声に返事はなかった。 俺が悪い。 走り回る美月を追いかけて、少し休憩しようって言ってベンチに座った。 時任と新名は飲み物を買いに、片桐は車に美月の上着を取りに、俺は・・・。 美月はすぐ傍にいると思っていた。 空を見て、曇ってきたなと思い、だから片桐は上着を取りに行ったのかと考え、赤い風船が飛んでるのを見つけ「美月、風船飛んでるぞ」と声をかけた。 返事がないので視線を下ろすと、いると思っていた場所に美月がいない。 一瞬、これは夢なのかと思った。 美月が、俺の前からいなくなるはずがない。 それなのに、美月がいなくなった。 夢に違いない。 立ち上がって名前を呼びながら辺りを探したが、姿も返事もなく。 頭を(よぎ)るのは、一般人より多く知る最悪の事態ばかり。 美月を見失って20分くらい経った。 俺にとっては2時間くらいに感じる。 焦りが汗になって流れた。 「美月───っ!!」 返事をしろ。 俺の声、聞こえてるだろ。 小さくてもいい。 1回でもいい。 返事をしろ。 絶対見つけるから。 頼むから。 返事をしろ・・・!! 「───」 「美月っ!?」 聞こえた、美月の声だ、間違いない。 近くにいる、どこだ、どっか囲まれてる中で叫んで・・・。 「ここか!?美月っ!!」 祈る様に、もう一度名前を呼んだ。

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