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がぶっ
【美月 side】
「ほら美月、恐がるな。初めてじゃないだろ」
時任 さんが、ぼくの手を掴んで言った。
恐がるな、なんて、むりだよ・・・。
「大丈夫ですよお嬢、痛くないですから」
新名 さんも、どおしてそんな事言うの?
いきなりは、ぜったい痛いよ・・・。
「美月ちゃん、ほら、力抜いて?」
めぐるさんまで、どおして助けてくれないの?
ぼく、やだよ・・・。
「私が支えてますから、ほら、入れますよ?」
片桐 さん、やめて、お願いやめて。
入れないで・・・だめ・・・だめだよ・・・っ!
───ガシャンッ!
「ひうっ!!」
最後に残った歯を押して、ワニの口に入れたぼくの指ががぶっと噛まれた。
・・・痛くない。
こんなに恐くて衝撃的なのに、痛くないの不思議。
「ほぉら、大丈夫だったでしょ?あ、お嬢、泣かないでっ」
「ほら、もう抜いていいぞ。もう一回やるか?」
「次はきっと勝てますよ」
「美月ちゃん、実は癖になってない?」
うん、ワニのおもちゃ、恐いのに何度もやっちゃう。
だって、次はぼくじゃない人が噛まれるかもって、それ見たいって思うから。
次は片桐さんが噛まれて欲しい。
そしたらぼくが、片桐さんの指、ワニの口に入れる。
「あっ、時任さんっ、なんで3本押しちゃうのっ?」
「こーゆうのは思い切りが大事だ」
「おい、情緒のない遊び方すんなよ。美月ちゃんは1本でいいからね」
「美月くん、どうして私の手を掴むんです?」
「お嬢、俺はお嬢が指定した歯を押します!」
ワニに噛まれたら罰ゲーム。
めぐるさんがいっぱい持ってきた、小さくて可愛いクリップを頭に着けるの。
ぼくが3つ、時任さんが1つ、新名さんが4つ、めぐるさんが2つ、片桐さんは・・・。
「・・・あっ」
───ガシャンッ!
「やったあ!片桐さん噛まれたあ!1番可愛いの着けよ!」
「じゃあ・・・これ!おっきいリボンにしよ!片桐の初罰ゲームを祝して!」
めぐるさんが隠してた、おっきくてピンクで、お花が付いたリボン。
片桐さん、可愛い・・・!
「にあうっ!似合うよ片桐さん!ねえ、写真撮ってもいい?ぱぱに送る!」
「それだけはご勘弁を・・・」
ぱぱからは「寝かせたよ」って、とらきちとまどかと海ちゃんが並んでお布団に入ってる写真が送られてきたんだ。
この写真も可愛い・・・。
「お嬢、俺と一緒に撮りましょう」
「うんっ」
「あっ、俺も入れて!」
時任さんが、新名さんとぼくとめぐるさんがぎゅって並んだ写真を撮ってくれた。
これ、ぱぱに送ろ。
・・・あ、麗彪 さんにも送っちゃお。
「おい!くっ付き過ぎだ!もっと離れて撮りやがれ!」
写真送ってすぐ、麗彪さんが帰ってきた。
写真見てくれたんだ。
「麗彪さん、お帰りなさいっ」
麗彪さんに飛び付いて、ぎゅって抱き付く。
麗彪さんも、ぼくの事ぎゅーってしてくれて・・・。
「ただいま美月。この写真、俺に嫉妬させたくて送ったのか?いい度胸だな。明日はどうせホテルから出さないし・・・歩けなくしてもいいって事だよな?」
・・・え?
ぼく、そんなつもりじゃ・・・。
麗彪さんに抱き上げられて、ベッドがある部屋に連れて行かれながら、痛くないけど優しくないワニより、痛くても優しい麗彪さんにがぶってしてもらうのが嬉しいって、思っちゃった。
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