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根はいいヒトデナシ

麗彪(よしとら)side】 「最悪だ」 京都から大阪のホテルに帰ってきて、美月(みつき)を風呂に入れてから膝上で寝かし付けている。 たくさん遊んで疲れたのか、美月はぐっすりだ。 「まさか(あや)にまで懐くなんて・・・」 「初対面の印象から、あり得ないと思っていたんですが・・・」 片桐(かたぎり)の言う通り、あの印象のままなら良かった。 だが、素性を調べて美月に同情したのか、極道(やくざ)に囚われてるのを哀れんだのか、本気で美月を心配したらしい。 もしくは、俺たちが美月に丸め込まれてるんじゃないかと思ったのか・・・。 「まあ、あれでも根はいい人なんですよね〜」 駿河(するが)よ、本気であれをいい人だと思ってんのか? 「でも、これ以上美月に近付けたくありません。綾は昔から・・・欲しいモノは必ず奪う人ですし」 確かに。 時任(ときとう)もよく、手に持ってるもん盗られて困ってたな。 「もしもの時は・・・俺が()ります」 落ち着け新名(にいな)、俺の指示を待て。 「でもさー、欲しがってるって言うより、美月ちゃんの事気にかけてるって感じだったよね。ちゃんと人の心持ってたんだ、綾」 環流(めぐる)はそう言うが、人の心を持ってた訳じゃない。 あの九十九(つくも)綾に人の心を芽生えさせた美月が凄ぇんだ。 さすが榊家(うち)の神様。 「美月が可愛いからな。ヒトデナシもヒトになっちまうんだろ」 「「「「「成程」」」」」 全員納得した所で、美月を抱き上げ寝室へ向かう。 明日はゆっくり起きて、お好み焼き食ってから帰路に着く予定だ。 美月をベッドに寝かせ、自分も隣に横になる。 ・・・ちゃんと俺のシャツ握ってんな。 「・・・ん?親父か」 ポケットから出して放り投げようとした携帯が、着信により振動していた。 こんな時間に何の用だ・・・。 『おう。みっちゃんどうしてる?』 真っ先に美月の心配かよ。 「俺の隣で寝てる」 『そうか。明日、空港まで迎えに行く』 「あ?車なら置いてあるぞ」 『早くみっちゃんに会いてえんだよ。綾に会ったんだろ。何かされなかったか?』 させる訳ねぇだろ。 「綾には触らせてない。が、最悪な事に美月が懐いた」 『お前が付いていながら何やってんだ。手え放すなよ?目も離すな。無事に連れて帰ってこい』 「言われなくても」 そういや晩飯を食ってる時、親父から美月の携帯に写真や動画が送られてきたな。 とらきちたちを公園に連れて行ったらしく、滑り台を滑るぬいぐるみたちの動画に美月は大喜びしてた。 俺たちにも見せてくれたが、当然の様に綾にも見せていて、綾の提案で2人でデザート食べてる写真を親父に送ったらしい。 その写真を見て、さすがの親父も心配になったんだろう。 綾が美月を狙ってるんじゃないかって。 『みっちゃんには、俺が空港で待ってんのは黙っておけよ。びっくりさせてえからな』 「朝イチで美月に伝えてやるよ」 『お前ってやつは・・・』 呆れてため息をついた後、ぶちっと通話が切れた。 美月が心配過ぎてなのか、相当苛立っていた様だ。 ・・・まさか、迎えに来る空港って、関西(こっち)の空港じゃねえよな?

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