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⭐︎番外編⭐︎駿河の誕生日

*[あの部屋]と[ご主人さま]の間* 【駿河(するが)side】 新名(にいな)の件が思わぬ形に収まって、麗彪(よしとら)さんが使える駒が増えた。 いい事なんだろうけど、まだ上手く飲み込めない。 美月(みつき)くんの精神状態を著しく悪くした元凶を側に置く事になるなんて。 美月くんに対する新名の執着について、理由がわかったからといってそう簡単に赦せるものなのか。 こうなる前に、さっさと消しておけば・・・。 そんな事をぐるぐる考えながら、仕事や美月くんの護衛シフトを作成する。 ・・・まあ、新名が加わって回しやすくはなったんだけど。 「駿河さん」 「えっ?美月くん?」 ダイニングで独り仕事をしていたら、美月くんがひょこっと顔を出した。 夜中の1時過ぎ・・・目が覚めちゃったのか、それともトイレかな。 「どうしました〜?怖い夢でも見ちゃった?」 「お仕事、してるの?寝ないの?」 「ええ。もう少しで終わるので、そしたら寝ますよ〜」 立ち上がり、美月くんの側へ。 麗彪さんが起きて、美月くんがいなくなったのに気付く前にベッドへ戻さないと・・・。 「駿河さん、今日、お誕生日だよ」 「え?・・・あ、そうですね〜」 日付が変わって12月1日になり、俺の26歳の誕生日だ。 美月くん、よく覚えてたな。 前に1度言っただけだったのに。 「お誕生日、おめでと。駿河さん、いつもありがと」 「あ・・・ありがとう、ございます」 美月くんがにこっと笑って、俺にぎゅっと抱き付いてくる。 身長はここに来てから少し伸びてそのまま。 体重はやっと35キロまで増えた。 食事もよく食べるようにはなってくれたが、16歳の男の子が食べる量には遠く及ばない。 発育不全。 15年も劣悪な環境にあったせいで、この子はこれ以上大きくならないだろうと、カンナが言っていた。 俺たちみたいな極道(にんげん)に、華奢なこの子を護り抜けるだろうか。 「ぼくね、頑張ってもっと勉強して、駿河さんのお仕事もお手伝いできるよおになるよ。そしたら、駿河さんひとりで、夜寝ないでお仕事しなくてよくなるよね?駿河さんばっかり、いっぱい疲れちゃうのやだから」 ああ・・・だめだ・・・泣きそう。 俺、ちゃんと笑えてるかな・・・。 「ありがとう、美月くん・・・大人になったら、一緒にお仕事しましょうね」 君はそんな事しなくていいんだよ。 少なくともあと14年は、子どもらしく楽しい事だけして、食べたい物だけ食べて、俺たちにいっぱい我儘言って頼ってくれていい。 過去の15年が無かった事にはならないけど、本来有るべきだった15年をつくってあげたいんだ。 そう思ってるのに、真っ直ぐ俺を見て、俺を手伝うって言い切ってくれる美月くんの気持ちは、そのまま受け取りたい。 「ぼく、あと2年で大人だよ!いっしょにお仕事させてねっ!」 「はいっ!一緒に麗彪さんを上手く動かしましょうね〜」 麗彪さんがすぐ美月くんを抱き上げる気持ちがわかる。 手を伸ばさずにはいられないんだ。 ベッドへ連れて行くという名目で、華奢で子ども体温の美月くんを抱っこし、麗彪さんの寝室へと向かった。

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