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包帯と言い訳

麗彪(よしとら)side】 (あや)がこっちに来て3日目。 昨日は朝から出て行って戻って来なかったが、今日もまだ戻って来ていない。 また美月(みつき)と遊ぶんじゃなかったのか? 「麗彪さん」 「ん?」 「綾ちゃん、帰ってこないの?」 ほら、美月が心配してんじゃねぇか。 連絡くらい寄越せよ。 「迷子になっちゃったのかな・・・電話、してもいい?」 「そうだな、まだ仕事中かもしれないし、俺から電話してみる。美月は新名(にいな)で遊んでろ」 「ふふっ、新名さんと、でしょ」 美月が新名とリビングで遊び始めたのを確認してから、寝室に行き綾に電話する。 『よっちゃん、なぁに?』 「なぁにじゃねぇよ。まだやってんのか?」 思いの外、普通に電話に出やがった。 やっぱまだ鬼ごっこが続いてんのか・・・。 『いやぁ、終わってんねんけどぉ・・・そのぉ・・・美月ちゃんに()よ会いたくて、ちょおっと雑ぅにヤり過ぎたっちゅぅか・・・なんや会いずらなってもぉて・・・』 ああ、怪我でもしたのか。 「カンナんとこいんのか?」 『・・・はぃ、カンナちゃんとこおるぅ・・・はは。よっちゃんたち、こぉゆぅんどないしとんの?美月ちゃんになんて言い訳しとるん?』 「仕事中に階段でこけたとか、デスクにぶつかったとか、アマゾン川で腹下したとか」 『なんやそれ。アマゾンてなんやねん』 「片桐(かたぎり)が腹撃たれた時の言い訳だ」 電話の向こうで綾がけらけらと笑った。 ダセぇ言い訳でも、美月を心配させるよりマシだろうが。 『はぁーウケるぅ・・・ほな、俺もなんや言い訳考えてくわぁ』 電話を切り、リビングへ戻る。 美月がすぐ気付いて、顔を上げた。 「綾ちゃん、まだお仕事だった?」 「ああ。もう戻ってくるってよ」 10分くらいして、カンナと一緒に綾が上がって来た。 リビングに入ってきた綾は、首と両手に包帯を巻いていて、美月はすぐその包帯に気付き驚く。 「綾ちゃんケガしたの!?どおして?大丈夫?こっち、座って?」 怪我人を心配した美月が、綾をソファへ座らせる。 さて、どんな言い訳をするのか・・・。 「これなぁ、よっちゃんくらいでえっかいお好み焼き作ったろ思てぇ、片面焼いてからひっくり返そぉとして失敗してぇ、お好み焼きが手ぇの上にのってもぉてん。あっちっちぃやったわぁ」 「火傷しちゃったの?お薬塗ってもらった?あと、首のとこは?」 綾がはっとした顔をした。 おい、まさか、首の方の言い訳を考えてなかったんじゃねぇだろうな。 「首はぁ・・・えぇとぉ・・・・・・こ、恐い人に、やられてもぉてん・・・」 未だかつて、九十九(つくも)綾がこんなに狼狽(うろた)える姿を見た事があっただろうか。 こいつ、綾の偽物か? 「恐い人・・・?綾ちゃん、恐い人にいじめられたの?ひどい、綾ちゃんかわいそ・・・」 「あっ、み、美月ちゃん、大丈夫やからっ!そんな痛ないし、カンナちゃんが治してくれたから平気やで?ごめんなぁ、びっくりさせてもぉて・・・」 あの九十九綾が反省している。 やっぱり偽物なのか? 「美月ちゃん、そんなに心配しなくても大丈夫よ。綾ちゃんの恐い人って、ピエロの事なのよ?ピエロがくれた風船が首のとこでぱーんて割れて、ちょっと擦りむいちゃっただけだから」 「・・・ピエロ?綾ちゃん、ピエロ恐いの?」 カンナのナイスアシストで美月が泣かずに済んだ。 後でカンナから聞いた内容だと、抵抗した相手に首を絞められて痣になってるらしい。 まあ、その相手は綾の息の根を止める前に絶命したんだろうが。 恐い人に悪意を持って傷付けられたなんて、オカアサンに傷付けられてきた美月が聞けばショックを受けるだろう。 口から生まれてきた綾の癖に、もっとうまく言い訳しやがれ。

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