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首元に手を
【麗彪 side】
リビングのソファをダイニングの方にどかし、ラグの上に布団やら毛布やら敷いてごろごろしている。
絶賛合宿ごっこ中だ。
時刻は24時を過ぎ、このまま寝ないで朝まで遊ぶと言い張っていた美月 は、俺の隣で寝落ちした。
「美月ちゃん、天使の寝顔やなぁ」
「まあな」
美月を挟んで、綾 も横になる。
おい近 ぇ、もっと離れろ。
「なあ、恐い人ってのも、美月ちゃんには禁句やった?」
首の包帯の言い訳を失敗した事、気にしてんのか。
「いや、ウチの禁句は前に言っといたやつだ」
「そぉかぁ」
美月の前では絶対にオカアサンて単語を口にするなと、京都に行く時に綾にも伝えておいた。
だから美月の反応を見て、それに該当する単語を自分が口にしたのだと思ったんだろう。
・・・恐い人、か。
オカアサンが恐いと認めた美月にとって、恐い人ってのはオカアサンだ。
連想して、泣きそうになったのかもな。
美月の事だから、綾に怪我をさせたのがオカアサンかもって思ったのかもしれない。
もうこの世にいねぇんだが。
「・・・ん・・・ぅ・・・」
俺の方を向いて横になっている美月が、控えめに掴んでいた俺のシャツをぎゅっと握った。
・・・まさか。
「美月?」
「・・・んぅ・・・っ・・・ひ・・・ぃ・・・」
「大丈夫、俺がいる。美月、大丈夫だ・・・」
震え始めた美月を抱き上げ、背中を摩る。
本格的に魘 され始めた。
無理に起こすとパニックになるから、背中を摩りながら耳元で優しく声をかける。
「美月ちゃん、どないしたん?」
「悪夢だ。減ってきたけど、まだたまに見る。原因は・・・美月の事調べたんならわかるだろ」
美月が浮上してこない。
手が冷たい。
これは、久しぶりに深いな・・・。
「起こさへんの?」
「無理やり起こすとパニックになる。だが・・・これは起こした方が良さそうだな」
さっきから息を詰まらせてる。
俺のシャツを放し、首元に手を持っていった。
泣いてる時とは違う、意図的に息を止めてるみたいな・・・。
「美月、起きろ!なあ、美月!」
「───かひゅっ・・・げほっ・・・はぁ・・・っ!」
苦しそうに呼吸を再開した美月を抱きしめ、大丈夫、俺がいると、何度も声をかける。
状況を見守っていた新名 が、キッチンへ向かった。
温かい飲み物と、タオルを取りに行ったんだろう。
「・・・ょし・・・とらさ・・・」
「ああ、ここにいるぞ」
「・・・あたま・・・いたぃ・・・」
「そうだな。ゆっくり息しろ、大丈夫だから」
新名が戻ってきて、濡れタオルを渡してきた。
美月の顔をそっと拭ってやる。
「くるし・・・かった・・・」
「ごめん、もっと早く起こしてやればよかったな。ごめんな・・・」
「・・・んん・・・だぃじょ・・・ぶ」
美月が落ち着いてきて、新名が持ってきたホットミルクを少し飲ませると、俺にもたれかかって眠ってしまった。
また控えめに、俺のシャツを握って。
「こんなん、よくあるんか?」
「泣き叫んで起きるとかはあったが、息止めたのは初めてだ」
首元に手をやったのを見て、なんとなく、どんな過去 だったのか想像できてしまう。
「俺のせえやん・・・あれ、首絞められてたんとちゃうか・・・俺が首に包帯なんてしよったから・・・」
「別にお前のせいじゃねぇよ。あの女が美月にしてきた事だ。まさかそこまでしてたとは思わなかったが」
美月が話してくれたのは、オカアサンの邪魔をするとぶたれたり、蹴られたり、踏まれたりして、痛くて立てなかったり、喉が痛かったり、吐いたりもしたって内容だった。
カンナによれば、骨折まではいかなくても、骨にヒビくらいは入ってただろうって。
それでも、美月が医者にかかった事実はなかった。
「美月が生きててくれて良かった」
喉が痛かったって、首絞められてたのか?
夢に見るほど、何度もやられたのか?
なんで美月がそんな目に遭わなきゃいけねぇんだよ。
助けてやれなくて、ごめんな・・・。
穏やかな寝息をたてる美月を抱いたまま、俺も、綾も新名も、朝まで眠らなかった。
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