215 / 300

夢と紫煙と口止め

麗彪(よしとら)side】 美月(みつき)には仕事だと言って、榊家(実家)に来ている。 知ったところでどうしようもないのに、知れるのなら知っておきたくて、親父に時間をもらった。 「みっちゃんは?」 「片桐(かたぎり)たちと山ん中にあるデカい滑り台に行ってる」 「へえ。みっちゃん滑り台好きだもんなあ」 たまに片桐と車で出掛けて、2人で滑ってきてるらしい。 今日は駿河(するが)環流(めぐる)も一緒だ。 「で、聞きたい事ってなんだ」 「美月の事だ。あの女が美月になにをしたか、知ってる事を全て教えて欲しい」 親父はため息混じりに煙草の煙を吐き、灰皿に灰を落とす。 「お前が知ってる以上の事はねえと言ったろ」 「首、絞められてたのか?」 「・・・・・・みっちゃんが言ったのか」 「(うな)されながら息止めて、首元抑えてたんだ」 ただ、あの悪夢を見た翌日の美月は合宿ごっこを楽しんでいて、夢の事は記憶にないような素振りだった。 「・・・・・・そうか。夢に見ちまったのか」 親父が煙草を灰皿に押し付けた。 ぐりぐりと、擦り潰す様に。 「知った所でどうしようもないぞ。なかった事には出来ない」 「それでも知っておきたい。トラウマを呼び起こすようなモノを美月に近付けない様にする」 「(あや)が首に包帯巻いてたな。あれが原因が・・・」 煙草を取り出し、咥え、愛用のオイルライターで火を着ける。 カチャン、とライターを閉じる音。 ふー・・・とゆっくり紫煙を吐く。 「殴る蹴るは殆ど毎日。左腕と両足は、何度か酷く腫れた。骨にヒビが入ったらしい。左肩を脱臼させて、整復(せいふく)した事もある」 「せいふく?」 「看護師だったんだ。関節を嵌めたんだよ」 あの女、看護師してたのか。 それで何で、自分の子を痛めつける様な事が出来たんだ。 「何度か首も絞めたと言ってた。一度、心肺蘇生をした事があって、それからは絞めてないとも・・・」 「殺してやる!!」 「落ち着け。もう欠片も残ってねえよ」 美月の15年は、地獄だ。 自分を苦しめるだけの母親と、2人きりの、逃げ場のない。 「聞かなきゃ良かっただろ」 「・・・・・・いや。親父はそれ、どうやって知ったんだ」 「母親(本人)から聞いた」 そうか。 閉じ込められて病院にも行ってなかったんだ、知ってんのはオカアサンだけだよな。 「俺がどう()ったかも聞きてえか?」 「いらねぇ。ゴミ処理方法に興味ねぇよ。欠片も残してねぇんだろ?」 「ああ。オカアサンだったモノは、この世に残ってない」 だったらいい。 親父に任せたんだ、俺や新名(にいな)()るより(むご)い方法だったに違いないのだから。 「そうか・・・ああ、アレの心肺蘇生は5度成功して、6度目に失敗したって事だけ教えといてやる」 「・・・そうかよ」 いい笑顔で言う事か? 「そういや、美月の前で()ってねぇだろうな?」 「・・・・・・・・・ぅん?」 「やっぱり喫ったんだな?美月がパパも煙の魔法が使えるとか言ってから、しまったって顔してたぞ。口止めしたのか?」 「し、してない!ちゃんと正直に言って謝るって約束を・・・すまなかった麗彪。みっちゃんが早起きして、見られちまったんだ。その1回だけだ。本当にすまなかった」 美月が煙草(そんなもん)に興味を示したらどうすんだ。 副流煙も美月の身体に悪いだろうが。 肺癌で死ぬなら独りで逝きやがれ。 親父に説教をし、しっかり反省させた頃、美月たちが榊家に帰ってきた。 俺の膝に座り、滑り台がどんなに楽しかったか親父たちに話す美月。 話を聞きながら、無意識に美月の腕や脚を撫でていたら、駿河と片桐から「美月くんが減ります」と言って止められた。 (うるせ)ぇ、お前らも知ったらこうしないではいられなくなるからな。

ともだちにシェアしよう!