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紅葉を見に行こうよう
【麗彪 side】
美月 はあの時の夢を覚えていないらしい。
それでも、感覚が残っているのか無意識なのか、昼間にぼーっとしながら首元を手で抑える事がある。
俺はその度 に、美月の手を下ろさせて、キスで上書きをした。
拒否られるかもしれないと少し不安ではあったが、首筋にもキスをして痕を残す。
美月は拒まず、少しくすぐったそうにしながら笑った。
「んふ・・・麗彪さん、首 ばっかちゅうするね」
「他んとこにもしてるだろ」
「ふふふっ」
こうして美月を執拗 く吸ったり舐めたりしていても、周りのやつらにすぐ止められる事がなくなった。
親父に聞いた話を共有したから、俺が上書きのためにやってるって理解してくれているんだろう。
おかげでヤりたい放題だ。
「ひゃぅっ・・・や、くすぐった・・・ぁふっ」
「そこまで!」
美月をソファに押し倒し、着せている俺のパーカーをたくし上げ脇腹を甘噛みしていたら、美月のココアと俺のコーヒーを持ってきた片桐 に止められた。
これ以上はアウトか。
「お嬢、大丈夫ですか?減ってませんか?」
新名 が美月のパーカーの裾を直しながら聞く。
甘噛みだ、まだ喰ってねぇ。
「うん?まだお腹減ってないよ?」
さっき昼飯食ったばっかだもんな。
俺は美月だったらいくらでも喰えるけど。
「美月くん、この動画を見てください。執拗 くて嫌な時はこうやって拒否するんですよ」
片桐が美月にスマホの画面を見せている。
いったい何の動画だ・・・?
「ふふ、可愛い」
動画では、毛足の長い猫が、飼い主からのキスを両前足で断固拒否していた。
何度顔を寄せても、その度 にきゅっと肉球を飼い主の唇にあてて押し返している。
「美月にやられたら・・・なんか嬉しいな・・・」
「麗彪さん、お嬢に冷たくされても喜ぶんですね」
新名の軽蔑する様な視線も気にせず、動画を見終わった美月を膝上に座らせてコーヒーを飲む。
美月が手に取る前に、念のためカップに触れて温度を確かめた。
・・・大丈夫そうだな。
美月にカップを持たせてやると、片桐が美月に適温で淹れたココアを嬉しそうに飲む。
「んく・・・ん・・・ふぁ。・・・あっ、そおだ!」
ココアを飲んで、美月が何か思い出したらしい。
俺の方へ振り返り、満面の笑みで言った。
「麗彪さん、紅葉を見に、行こうよう っ!」
「な・・・それ、誰に言わされたんだ?」
「駿河 さんっ」
あの野郎、美月にダジャレなんて覚えさせやがって・・・。
だが美月が言うと可愛くて許せてしまう上に、言えて嬉しそうにしているのを見ると頬が緩む。
「他には?」
「んー・・・と、ねこがねころんだぁ!」
「よし、どうやって寝転ぶのかベッドで見せてくれ」
カップをテーブルに置き、美月を抱き上げて寝室へ向かおうとしたが、片桐と新名に阻まれた。
それから、何処に紅葉を見に行くか話し合いながら、いつもなら絶対に口にしない様なダジャレを言い合い過ごす。
夕方になり駿河と時任 が帰って来て、俺の仕事が殆ど進んでいなかった事に気付くまで。
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