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本命チョコ

麗彪(よしとら)side】 表の仕事で出社して、今日が何の日だったか思い出した。 来なきゃ良かったな・・・。 「モテモテですね〜」 「お前と時任(ときとう)もだろ」 駿河(するが)と時任はまだしも、俺は結婚したと言ってんのに。 このイベント、うちの会社では禁止するか・・・。 「美月(みつき)くんチョコも好きですし、一緒に食べたらいいじゃないですか〜」 「こんなに食わねぇだろ。あと、市販のはまだいいが、手作りのはいらねぇ。美月にも食わせたくねぇし」 「市販のも、酒が入ってるのありますよ。いっその事纏めて榊家(さかきけ)に持って行けばいいんじゃないですか?」 時任、それはいい考えだ。 実家にいる奴らに消費させよう。 今日は2月14日、バレンタインデー。 正直、どうでも良すぎてすっかり忘れていた。 さっさと仕事を済ませ、帰路に着く。 駐車場に入り車から降りると、トランクルームに入りきらず俺の隣に置いていた紙袋がばさりと倒れ、中に入っていた物がざらざらとこぼれ落ちた。 「ち、面倒臭ぇ・・・」 「麗彪さん、おかえりなさい!」 「美月?」 片桐(かたぎり)の車から美月が降りてきた。 新名(にいな)も連れて、出かけていたらしい。 「どこ行ってたんだ?」 「お買い物っ。・・・麗彪さん、それは?」 あ、そうだった。 足元にいくつか、ラッピングされたチョコレートが転がっている。 拾って紙袋に戻していると、美月も転がっていた箱を拾ってくれた。 受け取って紙袋に入れようとしたんだが・・・。 「・・・これ、チョコ?」 「ああ。会社でもらって・・・」 「こんなにいっぱい?」 後部座席を覗き込み、紙袋を見つけた美月が言った。 トランクルームにも入ってるが・・・言わない方が良さそうな空気だな・・・。 「ええと・・・」 「麗彪さん、これ全部、女の人からもらった?」 「え?いや、どうだったかな・・・じゃなくて、俺はいらないから、実家に全部持ってくつもりだ。俺はこんなの食べないから」 「・・・・・・そっか」 美月の表情が更に曇った。 これはたぶん、俺が美月以外からチョコを受け取った事に怒っている。 直接実家に行って置いてくるべきだったか? そもそも受け取らなければ良かった? いや、今日出社しなきゃ良かったんだ・・・。 「ごめん美月・・・」 「もおいいよ。ぼくが作ったチョコも、ぱぱのとこ持ってくからっ」 ・・・・・・は? 「待ってくれ!美月が作ったチョコは俺のだろ!?俺は美月からのバレンタインチョコ以外食う気ないからな!美月もチョコも俺のだ!!」 そっぽを向いた美月を抱き上げ、強く抱きしめる。 こうしとけば、美月も、美月の作ったチョコも逃げないだろ。 「・・・ふふっ。しょーがないなー、麗彪さんにもあげる」 「良かった・・・も?俺にもって言ったか?他のヤツにもやるのか?」 「んふふっ」 可愛く笑えばいいと思ってんのか? 俺以外になんで美月がチョコやるんだよ・・・。 「麗彪さん、あのね・・・麗彪さんのチョコだけ、特別にしたから。本命チョコだよっ」 ・・・そうか。 俺だけ特別なら、まあいいか。 本命ついでに、美月に口移しで食わせて貰えればなお良いな。

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