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紙とペンと名前

美月(みつき)side】 どおして、あんな風になっちゃったんだろ。 麗彪(よしとら)さん、すごく困ってた。 困らせるなんて、だめなのに。 そんな事、したくないのに。 「ごめ・・・っ・・・なさ・・・いぃ・・・っ」 「謝んなくていい、悪いのは俺なんだし。美月はなんにも悪くない。泣かせてごめんな」 ソファに座った麗彪さんに抱っこされて、ずっと撫でてもらってる。 駿河(するが)さんもジュース持ってきてくれて、飲ませてくれた。 「すみません、俺が付いていながら麗彪さんが粗相を・・・」 駿河さんだって悪くないのに、謝らせちゃった。 もお大丈夫って、言わなきゃ・・・。 「・・・っ、も・・・へぇき・・・から・・・っ」 「平気じゃない。時任(ときとう)が綺麗にしてくれるまで・・・いや、綺麗になってもずっと我儘言い放題でいい。美月はギャン泣きしても可愛い」 「さすが美月くん専門の変態。あ、目元冷やしましょうね〜」 駿河さんが冷たいタオルを目のとこにあててくれた。 これしないと、目が腫れて大変になっちゃうんだって。 麗彪さんに抱っこしてもらいながら撫でてもらって、駿河さんに冷やしてもらいながらジュース飲ませてもらって、ぼく、わーって泣いてただけなのに偉くなったみたい。 「美月」 「ぁ、ときと・・・さ・・・」 「ちゃんと綺麗になったぞ。乾くまで我慢できるか?」 時任さんが、洗って綺麗にしてくれたブランケットを見せてくれた。 良かった、乾いたらまたいっしょにお昼寝できるね。 麗彪さんに、初めて会った時にもらった、大好きなブランケット・・・。 「ふぇ・・・ありぁと・・・かわく・・・っ、まってぅ・・・っ」 「いい子だな、美月。ほんとごめん。時任(おかん)も、本当にありがとな」 「いいえ」 「はぁー・・・どうなる事かと思いましたね〜」 麗彪さんたちは、みんな、本当に優しい。 みんな大好き。 もお困らせたくない・・・。 「あ、そうだ、明後日親父んとこ行こう。美月のひな祭りやるって」 「・・・ひ・・・?」 駿河さんが教えてくれた。 ひな祭りは、3月3日に女の子の幸せを祈るためにするんだって。 でも・・・。 「ぼく、女の子じゃ、ないよ?」 「ああ、美月は男の子なんだけど・・・俺たち以外はみんな女の子だって思ってるんだ。俺の嫁だし。美月は、女の子って思われるの、嫌か?」 そおなんだ。 だからみんな、ぼくの事「お嬢」って呼ぶのかな。 でも、新名(にいな)さんは知ってても「お嬢」って呼んでる・・・けど・・・。 「やじゃないよ?」 「そうかよかった!あとな、婚姻届って紙に名前書いて欲しいんだ。俺と結婚してるって、証明になるから」 こんいん、とどけ? ちょっと待ってね、調べるから。 婚姻届・・・法律上の夫婦となることを宣言し、役所に提出する書類・・・。 「書くっ!書きたいっ!ぼく以外書いちゃだめっ!」 「よし・・・!駿河!」 「こちらに!」 「美月、このペン使え」 駿河さんが出してくれた紙に、時任さんが渡してくれたペンで名前を書く。 あ、麗彪さんの名前、もお書いてある。 麗彪さんは字もかっこいい。 「久、緒・・・美・・・月、書けた!」 「おい、今日って・・・」 「3月1日、大安で〜す」 「すぐに出してきます」 時任さん、婚姻届持って行っちゃった。 そっか、役所に提出、するんだっけ。 「麗彪さん、ぼく、本当に麗彪さんのお嫁さんになるの?」 「ああ。もう久緒(くお)美月じゃない、(さかき)美月だ」 ・・・どおしよ、息できなくなりそおなくらい、嬉しい。 また泣いちゃう・・・嬉しくても泣いちゃうの、我慢できない。 また麗彪さんたち困らせちゃうけど、嬉しいって何回も言って、悲しいから泣いてるんじゃないよって、伝えた。

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