231 / 300

アルバム

麗彪(よしとら)side】 美月(みつき)を連れて榊家(実家)に来た。 美月のひな祭りだ。 居間の奥の和室に、とんでもない存在感の七段飾りが鎮座している。 その前にぺたんと座って、お雛様を見上げてる美月。 可愛いが過ぎる後ろ姿だな。 俺がスマホで写真撮ってる横で、親父と新名(にいな)も写真撮ってやがる。 「たまらんなあ」 「親父、一眼レフ(そんなもん)持ってたのか」 「ああ、しまい込んでたの思い出してな。昔はよく、お前たちの写真撮ってたんだぞ。あ、結婚おめでとう。親の同意書を用意しておいて良かった。みっちゃんまだ17歳だし」 「ありがとう。同意書(あれ)、どうやって手に入れたんだ?この世に欠片も残ってねぇのに」 「遺書と一緒に弁護士が預かってた・・・事になってる」 「自殺にしたのか?」 「病死にしたよ。結構長く監禁(入院)してたしな」 親父は美月に会った翌月にはオカアサンを捕まえてたらしい。 つまり、あの女が地獄に居たのは丸1年と少し。 ・・・まあ、どうでもいい。 もうこの世に欠片も残ってないヤツの事なんか。 「1番上が、おひな様と・・・?」 「お内裏(だいり)様です。2段目が三人官女、3段目が五人囃子、4段目が右大臣と左大臣、5段目が三人(じょう)()、6段目は嫁入り道具、7段目はお輿入れ道具ですね」 「おこ、しいれ?」 「美月が麗彪さんの家に嫁に行く時に使うもんだ。御駕篭(ベンツ)御所車(AUDI)重箱(弁当)」 「ふふっ、おべんと持ってくの?」 片桐(かたぎり)時任(ときとう)が美月を挟んで座り、七段飾りの説明をしてやってる。 ・・・お前ら、すっかり美月のパパとママだな。 「みっちゃーん、こっち向いて」 「はぁい・・・ぱぱ、それなに?かっこいい!」 一眼レフに興味を示した美月を連れ、居間に移動して食事をする。 ちらし寿司、(はまぐり)のお吸い物、だし巻き卵、唐揚げ、菱餅・・・。 食後は親父が持ち出したアルバムを見ながら雛霰(ひなあられ)を摘む。 美月は親父の膝上だ。 「あっ、麗彪さん!可愛いっ!」 「5歳の時だな。こっちが7歳の駿河(せっちゃん)、5歳の時任(さっちゃん)、よっちゃんを抱っこしてんのが20歳(はたち)の片桐だ」 「駿河さんと時任さんも可愛い・・・片桐さんもかっこいい・・・新名さんとカンナさんは?」 「んー・・・あ、これが18歳の環流(めぐる)だ。新名はもう少し後・・・お、いたぞ。榊家(うち)に来た14歳の時だな」 「ぱぱどこ?」 「パパは撮ってる方だから・・・ああ、いた、ほらパパだ」 「・・・麗彪さん?」 「パパだよ。麗彪より格好いいだろ?」 写真なんて、いつの間に撮ってたんだ。 撮られてんの気付いてるのは片桐だけっぽいな。 環流は明らかな作り笑い・・・まだ榊家(うち)に来たばかりで様子おかしい頃か。 新名・・・表情ねぇな。 あの狐笑いはいつからし始めたんだっけ・・・。 「子犬だあっ!可愛い!・・・あ、桜鬼(おうき)?あと、こっちが楓鬼(ふうき)でこっちが柃鬼(れいき)?」 5年くらい前の、ジャーマンシェパード3姉弟(きょうだい)の写真だな。 「そうだよ。次のページはドーベルマン(ロルフたち)だが・・・どれが誰かはわかんねえな。みっちゃんの写真も、現像したらアルバムに入れような」 「うんっ!」 おい、子犬と俺の美月を並べて収めるなよ。 どうせなら、美月専用アルバムでも用意するか。

ともだちにシェアしよう!