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クッキーと嫁

麗彪(よしとら)side】 美月(みつき)が大量購入したとらとらクッキーを摘みながら、表の仕事の資料に目を通す。 俺の隣に座ってぴったりくっ付き、同じ様にとらとらクッキーを摘む天使は、どうやらリアルな虎が描かれたものを選んで食べているらしい。 さっきから、俺の手にするとらとらクッキーは可愛い顔のものばかりだ。 「美月さん」 「なんでしょ?」 「俺にもカッコいいのください」 「んふっ、ばれちゃった」 また、可愛く笑って誤魔化したな。 俺がそれを赦さずにいられないって、わかってんだろうな、この小悪魔は。 「だって、カッコいいの、麗彪さんみたいなんだもん」 「俺みたいなのは、俺は食っちゃいけないのか?クッキーなんだから共食いにはならないぞ?」 「んー・・・、カッコいい麗彪さんは、ぼくのなの」 「・・・・・・そっか」 それ言われたら、俺はなんも言えないんだが。 とらとらクッキーも、それに描かれたカッコいい虎も、俺じゃない。 それでも、俺みたいってだけで、譲る気がないのか。 「うさうさクッキーあったら、全部俺が食うからな」 「んぅ?・・・っ、なんでぇ?」 クッキーを咀嚼し飲み込んだ美月が、小首を傾げる。 俺が虎ならお前は兎だろ。 「はんぶんこしよーよ」 「嫌だ。兎はリアルでも可愛くても美月に見えるから、全部俺のだ」 「んもぉ」 聞き分けのない子供でも見る目をして、美月がまたカッコいい虎の描かれたクッキーを取った。 「麗彪さん」 「なんでしょ?」 「うさうさクッキーがあっても、麗彪さんは食べちゃだめだよ」 「急に意地悪だな」 まあ、美月になら意地悪言われてもされても嬉しいんだが・・・。 「麗彪さんが食べていいのは、ぼくだけだからっ」 「・・・・・・そっかぁ。なら、美月が代わりに沢山食えよ?俺が美月を喰っても喰っても喰っても減らない様に」 「ふふっ、麗彪さんぼくばっか食べ過ぎぃ」 手にしていた書類をガラステーブルに放り、無防備に笑う兎を捕まえる。 捕食者に捕獲されたのに、逃げるどころか手を伸ばしてくる被捕食者をひと舐め。 甘いのは、クッキーのせいだけじゃない。 美月だからだ。 「んっ・・・んふ・・・っ・・・ふぁ」 「美味(うま)ぁ・・・なあ、駿河(するが)たちが帰ってくる前に・・・」 「・・・ん、ベッド、いく?」 兎は万年発情期なんだったか。 ほんと、俺に都合のいい嫁だな。

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