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雷で停電した日

麗彪(よしとら)side】 完全に油断してた。 ぼーっとしながら首元に手を持ってく事もなくなって、悪夢らしい夢も見なくなってる様だったから。 「雷、凄いですね」 「ああ。音が聞こえないから気付かなかった」 リビングで仕事をしながら、とらきち(ぬいぐるみ)たちと並んで座りDVDを観ている美月(みつき)を見ていたら、片桐(かたぎり)が窓の外を眺めながら言った。 うちは防音のはめ殺し窓だから、遮光カーテンを開けなきゃ雷なんて気付けない。 時刻は23時を過ぎて、今観てるDVDが終わったら寝ようと思っていた。 「かみなり?」 そういや、美月は雷大丈夫なんだろうか。 立ち上がって片桐の隣に行き、並んで外を眺め始めたが・・・。 「あ、光った・・・」 「ずいぶん近いですね」 美月の様子は、特段変わったところはなく、(むし)ろ冷静に見える。 なんだかそれが、逆に不安に感じた。 そう感じた時点で、美月を抱き寄せておけば良かったのに・・・。 音もなく、ふっ・・・と部屋の照明が消える。 停電だ。 前にもあった気がするが、自動復旧するから1分も経たずに点くだろう。 「美月、大丈夫か?」 「・・・え、いません!美月くん?どこです?」 片桐が慌て出した。 急に暗くなって目が慣れない。 いないって、美月がいないのか? 何言ってる、お前の隣にいただろ? 「美月?危ないからじっとしてろよ?なあ、返事しろ、美月!」 片桐も黙って、気配を探っている。 少なくとも、リビングに美月の気配はなかった。 なんでだ、暗くなったのに驚いて逃げた? どこへ? ぱっと照明が点く。 やっぱりリビングに美月の姿はない。 ラグの上に並んで座っていたぬいぐるみが、不自然に倒れているだけだ。 「美月?もう大丈夫だぞ、どこ行った?」 片桐が廊下と玄関の方を見に行く。 俺はダイニングを覗き、その先のキッチンも確認に行った。 「みつ・・・き?」 いた。 キッチンの奥、隠れる様に小さくなって震えている。 その痛々しい姿を見て、手を伸ばす事すら躊躇(ためら)われた。 「美月、大丈夫だ。俺がいる。ほら、こっち見てくれ。美月・・・」 「・・・ぃ・・・め・・・な・・・ごめ・・・さ・・・」 ごめんなさい。 小さな声で、何度も、祈る様に繰り返し、(とな)えている。 それは、オカアサンに言ってるのか? もうこの世にはいないんだ、親父が殺したから。 悪いのはオカアサンの方なんだ、美月が謝る必要なんてない。 「みつ・・・美月!?やめろ!!」 落ち着くまで、触れずに見守ろうと思っていたが、美月の手が自分の首にかかり、息を止め始めたのでなりふり構わず制止した。 震える両手を片手で掴んで、もう片方の手で抱き寄せて、耳元で声をかける。 「美月、息しろ、もういいから、大丈夫だから、美月は何も悪くない、俺がいる、もう苦しくない、息してくれ・・・愛してる・・・美月・・・っ」 「───っけほ、ひゅ・・・っ、げほっ・・・はぁっ、はぁ・・・は・・・」 急に暗くなったとは言え、片桐でさえ見失う様な気配の消し方をして逃げたのは、そうでもしないと捕まってしまうからだったのか。 雷で停電した日だったのか。 美月がオカアサンに心肺蘇生された(殺された)日は・・・。

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