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あの夢の、前
【美月 side】
どおして。
ぼくは、そんなに、わるいこだった?
「美月・・・ゆっくり息しろ・・・もう大丈夫だからな・・・恐い事なんて起きない・・・もう苦しくなんてならない・・・大丈夫・・・」
優しい声。
ずっと聞こえてる。
少しずつ、あったかくなってきた。
心臓の音。
ぼくのじゃない。
やっと目が見えてきた。
シャツ。
匂い。
いい匂い。
これ・・・。
「・・・ょし・・・とぁ・・・さ・・・?」
「ここにいるよ」
手、動かない。
なんで・・・あ、麗彪さんが掴んでるんだ。
「て・・・」
「ああ、ごめん、痛かったか?」
わかんない、けど、痺れてる感じする。
抱っこして欲しい。
麗彪さんに手を伸ばそおとしたけど、うまく動かない。
「・・・っ、だ・・・こ」
麗彪さんがすぐ、ぼくを抱っこしてくれて、ダイニングのイスに座った。
ぼくは、うまく動かない手で、麗彪さんのシャツを掴む。
「・・・お茶、淹れます」
片桐 さんも来て、キッチンであったかいお茶をいれてくれた。
麗彪さんに抱っこされたまま、ちょっとずつ飲む。
思い出した。
あの夢の、前にあった事。
まっ白で、まっ黒の、夢の前。
雷の光と音。
お部屋が真っ暗になって、ぼくはびっくりして声出しちゃって。
うるさいって言われて、両手で首を絞められた。
最後に首を絞められた時の記憶。
「も・・・へぇき・・・」
「そうか?手首、見せてくれ。強く掴んだから痣になってるかも」
麗彪さんがぼくの両手を見て、少し赤くなったところを優しく摩 ってくれる。
麗彪さん、言ってくれたよね。
夢は夢だって。
どんな夢を見ても、ぼくは麗彪さんといっしょだって。
戻ってこないって。
永遠にさよならだって。
だからもう、苦しくなるのも最後にしよう。
ぼくには、麗彪さんがいてくれるんだから。
「ぼくは、そんなに、わるいこだった?なんかいも、謝ったんだよ・・・」
「もう謝らなくていい。美月は謝る様な事してない。謝らなくていいのにずっと謝ってたんだ。もう誰にも謝らなくていい。本当に悪い事したって、今まで謝った分、美月はもう謝らなくていい」
いつも優しく、教えてくれる。
だからぼく、麗彪さんの言う事、全部信じるよ。
ぼくは、わるいこじゃなかったって。
「ありがと、麗彪さん・・・いっしょにいてくれて、助けてくれて・・・大好き・・・もお恐くない・・・ぼくは、わるいこじゃない・・・っ」
「美月はいい子だ。俺だけじゃなくて、みんなそう言ってる。美月を悪い子なんて言うやつは、もう何処 にも居ない」
「・・・うんっ!」
あれが、最後。
もお、あの手がぼくの首を絞める事はない。
だから、永遠にさよなら。
おかあさん。
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