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⭐︎番外編⭐︎銭湯に行こう
***籠の鳥パラレル***
── 5歳の美月が榊家 に居たら ──
【麗彪 side】
家の風呂が壊れた。
まだ肌寒い季節だというのに、お湯が出ないらしい。
「小城 の湯貸し切りました」
藤堂 が、風呂が直るまで近所の銭湯を手配した。
俺たちも何度か行った事はあるが・・・。
「おぎゅ?」
「小城の湯。銭湯だ」
「せんとー?」
「みんなで入る、広いお風呂ですよ」
時任 と片桐 が、小首を傾げる天使に説明している。
その横で美月の分の着替えも用意していると、美月が風呂に入る時に遊んでいるアヒル隊を持ち出した。
「美月、落とすからアヒルは1匹にしとけ」
「んん・・・よちとあしゃん、もってぇ」
ピンクのアヒルを持った美月が、水色のアヒルを渡してきた。
・・・仕方ねぇな、2匹までだぞ。
「しゅうがしゃん、もってぇ」
「い〜よ〜」
駿河 が黄色のアヒルを受け取った。
・・・この調子だと、各自に1匹ずつ持たせてアヒル隊5匹全部持ってくつもりだな。
まったく、美月は賢いな。
「にーなしゃん」
「はい、お預かりします」
新名 にはオレンジ色。
「めぐうしゃんもぉ」
「はぁい」
環流 は薄紫色。
一番風呂に向かうのは美月と俺、駿河、時任、片桐、新名、環流、それから・・・。
「じゃあ、みっちゃんは俺が抱っこして行こうなあ」
「ぱぱあっ」
まあ、当然親父も一緒なんだが、なんで美月抱っこしてんだよ。
それは俺の役目だって言ってんだろうが。
「親父、美月の世話は俺がするって言ってんだろ。返せ」
「なに言ってんだ。子供たちの面倒は家長である俺が見るに決まってるだろう。よっちゃんも手ぇ繋ぐか?」
「ざけんな」
「ははっ、可愛いなあ」
銭湯までは徒歩5分程。
途中、小さな駄菓子屋がある。
「ぱぱ、ぱぱっ」
「何が欲しいんだい?」
案の定、寄り道。
帰ったら晩飯だぞ、美月はおやつも食ったし、また菓子を食わせるのは・・・。
「こえ!」
「これかあ・・・パパも持ってないやつだなあ。さすがみっちゃん」
美月が選んだのは電動バブルガトリング。
黒いガトリングガン型の、シャボン玉のおもちゃだ。
こんなもんまで置いてんのか。
確かに、うちにガトリン グの本物はない。
片桐がさっと会計を済ませ、俺たちは再び銭湯に向かった。
「美月ちゃん、ばんざーい」
「ばんじゃーいっ」
銭湯に着き、脱衣所で環流が美月の服を脱がせながら身体 チェックをしている。
痣は殆ど治ったが、環流はまだ何か気にしてるらしい。
・・・関節か。
そういや、美月の手を引く時は絶対に引っ張るなと全員に伝えていた。
だからみんな、美月の動きを制したい時は即抱き上げる様にしている。
「あけてっ、あけてっ」
「銭湯 で遊ぶのか?・・・まあ、いっか」
美月にせがまれ、電動バブルガトリングを開封する。
「・・・あ、美月、これ電池が必要だ」
しかも別売。
いや、必要なもんは同梱しとけよ・・・。
「買っておきました、どうぞ」
片桐がすっと単3電池を差し出した。
買う時に電池別売の表記を確認してたのか、抜け目ねぇな。
「美月、遊んでもいいけど、湯船にシャボン玉が入らないようにしろ。身体洗うとこでやるんだぞ」
「あいっ!」
時任 の注意に元気な返事をし、ものすごい勢いでシャボン玉を撃ち始める美月。
楽しそうでなにより・・・だけど、洗い終わった身体にシャボン玉を撃ってくるなよ・・・。
「美月、身体洗うぞ。シャボン玉は休憩な」
「・・・あぃ」
渋々ガトリングガンを置き、こっちに駆け寄ろうとした美月が、つるっと滑る。
血の気が引き、全てがスローモーションになった。
全身の筋肉をフル稼働し、なんとしてでも美月を受け止めようと動く・・・のは、当然俺だけではなかった訳で・・・。
「「「「「「い"だっ!!」」」」」」
ひょいっと美月を抱き上げた新名の足元で、他6名は多重衝突。
・・・そうだった、新名 が影みたいに美月に付いてたんだった。
「大丈夫ですか?」
「こりょんじゃった?だいじょぶ?」
転ぶとこだったのはお前だ、美月。
・・・無事で良かったけど。
気を取り直し、美月の髪と身体を洗ってやる。
髪を洗う時は目にシャンプーが入らない様に目を瞑らせているが、身体洗う時は開けててもいいんだぞ?
可愛いからいいけど。
洗い終わり、浴槽へ向かう。
この銭湯には熱湯 、ぬる湯、炭酸泉、電気風呂、サウナと水風呂がある。
親父と片桐は熱湯に入り、美月も付いて行こうとしたが、5匹のアヒル隊はぬる湯に浮いていたので素直に俺とぬる湯に浸かった。
時任が前もって、美月を誘導するために浮かべておいた様だ。
ぬる湯には俺と美月、時任、新名。
駿河と環流は炭酸泉。
「ぱぱ、かちゃぎいしゃ、どこいくのぉ?」
「サウナだよ。みっちゃんはここにいな?」
ここにいな、と言われたからには素直にここにいるつもりなんだろうが、天使は下界のサウナとやらに興味津々だ。
「なにすゆとこ?」
「んー・・・熱い部屋で・・・修行するとこ?」
「しゅぎょー?」
修行って言葉、誰か教えたのか?
いや、違うな、言葉の響きが気に入っただけみたいだ。
すっかり温まった美月を湯船から出してやる。
また武器を手にしようと歩き出したかと思ったら、駿河と環流が浸かっている湯船に興味を示した。
「なにしてうの?」
「炭酸泉に浸かってるんだよ〜」
「血流改善、疲労回復、美肌効果があるんだよ」
美肌って・・・お前らに必要か?
温度は低い様で、環流が抱っこして試しに入れてやった。
「・・・ちゅぶちゅぶ、いっぱいちゅく」
身体に着いた気泡を無邪気に喜ぶ美月を見ながら、俺は次の動線を検討した。
この浴槽の隣、かつガトリングガンに向かう途中、電気風呂がある。
美月が興味を示したらまずい。
「よちとあしゃん、しゃぼんだまー」
「ん?ああ」
美月を環流から引き取り、電気風呂を見せない様注意して・・・。
「こっちはぁ?」
美月、意外と目敏 いな。
なんて説明するか・・・。
「お、みっちゃん、電気風呂 は危ないからだめだよ。パパと水風呂入ってみるかい?」
「はいりゅっ」
サウナから出た親父と片桐が、かけ湯をして水風呂に入った。
電気風呂から興味を逸らすために美月を誘った様だが・・・いや、風邪引くだろ、だめだ。
「美月、水風呂は冷たいぞ?」
「ぱぱとかちゃぎいしゃん、へぇきなの?」
「修行中だから、大丈夫なんだろ。美月は風邪引くからやめとこう」
「しゅぎょー!ぼくもー!」
仕方ない、実地でわからせるしかないな。
美月の両脇に手を入れ、水風呂に足の先を入れる。
「ちゅめたっ」
「「ぶっ」」
美月が蹴り上げた水が、親父と片桐の顔面にかかる。
・・・これ、面白いな。
「ほら美月、親父たちの修行を手伝ってやろうぜ。もっとばしゃばしゃしろ」
「あいっ」
美月の性格的に、人の顔に水を蹴り付けるなんてしないんだろうが、修行という美月的不思議ワードのおかげで容赦がない。
まあ、小さな足で一生懸命やっても、水量はたかが知れている。
「みっちゃあん、降参だあ、パパの負けだあ」
「はっ、ごめなしゃ・・・」
「謝らなくていいんですよ。雅彪さんも私も喜んでますから」
5歳児に水を蹴り付けられて喜ぶとはな・・・まあ相手が美月なら仕方ないか。
親父と片桐はシャボン玉を乱射する美月を眺めながら休憩し、再びサウナに入っていった。
それから、シャボン玉で遊んだり、俺と駿河と時任と新名で電気風呂チャレンジをしたり、ぬる湯に浸かりながらアヒルレースしたり・・・。
「帰るぞ。アヒルとガトリング忘れるなよ?」
「おい、また親父が美月抱っこしてくのかよ」
「当然だ。そのためにブルゾン 持ってきたんだぞ?」
親父はそう言って、美月を抱っこした上からブルゾンのチャックを上げた。
・・・なんだそれ、俺にもやらせろよ。
「みっちゃんが湯冷めしたら大変だからな」
親父は美月、俺はピンクのアヒル、駿河は黄色のアヒル、時任は水色のアヒル、新名はオレンジのアヒル、片桐はガトリングを持ち帰宅した。
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