242 / 300
⭐︎番外編⭐︎病院に行こう
***籠の鳥パラレル***
── 5歳の美月が榊家 に居たら ──
【環流 side】
やっと終わった・・・帰れる・・・。
大学病院の救急科で後期研修を受けながら、週1で精神科での研修も受けてる。
自ら多忙に多忙を塗り重ねる結果になったけど、これから先、榊家 で役に立つには必要だと思うから。
だから休みは貴重だ。
榊家 に帰ろうと病院を出ると、いつもの様に黒塗りのセダン が待っててくれて・・・ない。
代わりに黒塗りのSUV が・・・。
「めぐうしゃっ!めぐうしゃっ!」
俺の最大の癒しであり、帰れる時は短時間でも必ず帰ると心に決めている理由。
榊家 に舞い降りた小さな天使、美月ちゃん。
その美月ちゃんが、厳 つい車の横にちょこんと立って手を振っている。
「ゔあ"ー美月ちゃあーん!」
崩れ落ちながら美月ちゃんに抱き付く。
だが決して体重はかけない。
「おかえなしゃい。おちゅかえしゃまっ!」
小さな手で、美月ちゃんが俺の頭を撫でてくれる。
はぁー・・・SAN値 が回復するー・・・。
「美月が環流の迎えに行きたいって言うから来た」
「あ、麗彪 くんも。ありがとう」
いつもとは違うお迎えに、それだけで疲れが消し飛んだ気がした。
美月ちゃんをチャイルドシートに座らせて、麗彪くんがその隣に座るのかなと思ったら、俺を座らせてくれる。
・・・え、若、どうしたの?
心入れ替えたの?
「無理し過ぎんなよ。美月が心配するだろ」
「・・・あはっ、わかりました」
さすが若、そういう家族思いなところは雅彪 さん譲りなんだな。
「めぐうしゃん、おーちかえったや、ごはん?」
「うん、ご飯・・・あれ、美月ちゃんは?朝ご飯食べた?」
今は夜勤明け、8時半過ぎ。
榊家から大学病院 まで車で30分くらい。
美月ちゃんの朝ご飯の時間は、麗彪くんたちが学校の日は7時過ぎくらいからだけど、今日は学校が休みだから、ゆっくり起きて8時くらいから食べるはずだ。
「めぐうしゃんと、いっしょ!」
「そぉなのぉ?嬉しいぃ・・・けど、お腹空いちゃったでしょ?ごめんねぇ」
なんて優しい天使・・・夜勤明けの荒んだ心が浄化される。
しかも、美月ちゃんと朝ご飯一緒に食べられるなんて・・・。
「環流、美月のほっぺた拭いてやれ」
「え?ほっぺ・・・あら?」
うーん、なんだろ、てりっとした色の濃い蜂蜜みたいな、甘塩っぱい匂いの・・・。
「・・・みたらし?」
「みたらし白玉。3つも食ったんだよな?」
「んふふぅ」
白玉ほっぺを拭いてあげると、嬉しそうに笑う。
可愛いなぁ。
「めぐうしゃん、おーしゃしゃん?」
「うん、お医者さん」
「どんなの、したの?」
「えー・・・っと」
色々来たなー・・・急性アルコール中毒とか、自殺未遂とか、夫婦喧嘩が白熱し過ぎて刺されちゃった旦那さんとか。
どれも美月ちゃんの耳には入れたくないんだけど・・・。
「飲み過ぎちゃった人を助けたりぃ、怪我しちゃった人を縫っ・・・絆創膏貼ってあげたり、かなぁ」
正確には、急性アルコール中毒には点滴と尿道バルーンカテーテル、自殺未遂には本懐を遂げられ、刺された旦那さんは病院に着いた途端何を思ったか刺しっぱなしにしてた包丁を自分で抜いちゃってカオス・・・こっちは逆に冷静になったけど・・・。
「めぐうしゃ・・・えらいえらいね、がんばったね」
小さな手が、俺の頭を優しく撫でる。
「・・・み、美月ちゃ・・・っ」
やばい泣きそうになった・・・!
泣いたりしたら心配させちゃう。
「着きました」
運転していた片桐 の声で、既に車が停車していた事に気付く。
美月ちゃんを抱いて降り、玄関を開けると「お帰りなさい!」と出迎えのやつらから声をかけられた。
麗彪くんがいるってのもあるけど、俺だけで帰って来た時も同じだ。
18で榊家 に来た時、雅彪 さんが俺の事を「弟」だって言ってくれたから。
実際は花道の家元に生まれた非嫡出子 。
俺の母親が、雅彪さんの従姉 の親友だったって縁で、あそこから救い出してもらった。
「おう」
「ただいま」
「だだいまぁっ」
美月ちゃんも元気にお返事。
出迎えのやつら、たぶんこれが目的なんじゃないかな。
デレデレしやがって・・・。
部屋に荷物を置きに行き、居間へ向かう。
食卓には美月ちゃんと麗彪くん、駿河 くん、時任 くん、新名 くん、片桐が待っていてくれた。
「みんな、待っててくれてありがとぉ」
仕事中はしっかり食べる暇もなく、売店で買ったおにぎりとかパンとか少し齧るくらい。
榊家 では独りで食事するなんて事滅多になくて、温かい食事をしっかり食べられる。
なにより・・・。
「めぐうしゃん、あーん」
「あー・・・んっ。んー、美味しー」
美月ちゃんが可愛過ぎて天使過ぎて最高!
こんな子が、傷だらけで雅彪さんに連れてこられた時は本当に衝撃だったけど・・・。
今はとにかく、いっぱい食べていっぱい寝て、いっぱい笑っていてくれたらいい。
食事を終えたら風呂に入ってから仮眠をとるんだけど、風呂から出て自室に向かう俺の後をふわふわの部屋着に着替えた美月ちゃんが付いて来た。
・・・え、もしかして?
「めぐうしゃん、とんとんすりゅ!」
天使が寝かし付けに来てくれたー!!
何それ至福・・・っ!
ちょっと離れたとこから麗彪くんたちが見てるけど、美月ちゃんがとんとんするって言ってくれてんだから部屋連れ込んでもいいよねこれ!?
俺の勝ち誇った様な笑みに、殺意の籠 った視線を送ってくる中学生たちよ・・・ちっとも恐くないぞっ!
ともだちにシェアしよう!

