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⭐︎番外編⭐︎本屋に行こう
***籠の鳥パラレル***
── 5歳の美月が榊家 に居たら ──
【駿河 side】
受験勉強と言える程、力はいれていない。
志望校はA判定、内申点も悪くないはずだ。
それでも一応勉強はする。
まあ、暇潰し程度に過去問集を解いてるだけなんだけど。
今やってる問題集を終わらせると、持っているものは全て終わってしまった。
「新名 〜本屋行くけど、いるものある〜?」
「・・・いえ、大丈夫です。お供しますか?」
「いいって。励めよ、受験生〜」
「貴方もですけどね」
同じく受験勉強をさせられている新名の部屋に寄り、声をかけてからスマホと財布を持って玄関へ向かう。
散歩がてら歩いて行こうと、スニーカーを履いていたら・・・。
「しゅーがしゃんっ」
「わあ、美月 く〜ん」
背中にぽすっと、小さな衝撃。
我らが癒し、美月くんだ。
「おでかけ、しゅうの?」
「うん、お出かけするよ〜。本屋さんに行ってくるね」
「ぼくもぉ!」
え、美月くんも?
それはいいけど、麗彪 さんは・・・?
「私もお供します」
いつの間にいたのか、片桐 が美月くんに靴を履かせ始めた。
あ、そうか、麗彪さんと時任 は戦闘訓練 の時間か。
俺もたまにするけど、早々に向いていないという事が自他共に判明して、頭の方を鍛える事にしてる。
新名は勉強の息抜きと言い訳しては、毎日やってるみたいだけど。
「歩いて行くつもりだったけど・・・」
「ありゅく!」
「歩きたいそうです」
そっかー。
麗彪さん抜きで美月くんとお散歩なんて・・・ニヤついちゃうな。
美月くんと手を繋ぎ、片桐 も連れて歩き出す。
榊家 にはガチの番犬 たちもいるけど、外を歩かせるには危険なやつらだ。
家族にしか懐かず、知らない人間には秒で攻撃する。
しかも何故か、美月くんがいると美月くんを護ろうとする意識が高まる様で、家族にも軽く噛み付く事があるくらいだし。
目的の本屋は、徒歩で10分くらい。
美月くんが一緒だから、20分くらいかな。
「しゅうがしゃん、おべんきょの、かうの?」
「うん、お勉強の本を買うよ〜。持ってるのやり終わっちゃったから」
「しゅごいねっ!しゅうがしゃん、てんしゃいねっ!」
「ええ〜ありがと〜」
天才だなんて、そんな褒め言葉で素直に喜んでしまうのは、天使が言ってくれるから。
美月くんの言葉は、嘘も裏もなく、真っ直ぐで清 い。
榊家 みたいな所に居ていい子じゃないんだろうけど、もう絶対に他所 には出られないだろう。
榊家 にはそれを赦さない人間しかいない。
俺も含めて。
「ほんやしゃん?」
「ここは床屋さん」
「ほんやしゃん?」
「ここはお花屋さん」
「ほんやしゃん!」
「・・・美月くんの好きな雪乃兎 屋さんだね〜」
本屋さんって断言したけど、明らかに贔屓にしてる和菓子屋さんでしょ。
いつもの、欲しいのかな。
「いらっしゃいまし、お嬢ちゃま」
「こんにちわっ」
元気にご挨拶・・・可愛い。
雪乃兎屋は元々榊家 が贔屓にしている和菓子屋だけど、美月くんが来る様になってからは店側が美月くん贔屓になった。
店名である「雪乃兎 」の名が付いた雪兎の練り切りに、美月くんイメージの薄桃色バージョン「花 乃 兎 」が追加されたくらいだ。
「みたあししやたま、くだしゃいっ」
「はあい、ありがとうございます」
あ、これから本屋に行くんだけどな〜・・・。
「美月くん、みたらし白玉は帰ってから食べますか?今食べたいですか?」
「ん・・・おーち、かえってたべゆ!」
「では、いつもの様にお願いします」
「かしこまりました」
片桐が店員に宅配を頼んだ。
お茶菓子とかおやつとか贈答用とか、ざっくりと依頼して定期的に宅配してもらってるから、それと一緒に持ってきてもらうのか。
和菓子屋を出て、今度こそ目的地へ向かう。
「ほんやしゃん、あしょこ?」
「うん、そうだよ〜」
本屋に着き、俺が問題集を探す間、美月くんは片桐に抱かれ文房具売り場へ。
絵本や図鑑は雅彪 さんが大量に仕入れて売る程あるし、お絵かきの道具でも見たいのかな。
「こんなもんか。あれ、これやった事あったか・・・まあいいや」
レジに行くと、左腕に天使、右手にスケッチブックと36色の色鉛筆を持った厳ついパパも来た。
「一緒に会計します」
「は〜い」
片桐に会計を任せて、俺は美月くんと手を繋いで待つ。
側 から見て、俺たちはどう見えてるんだろう。
やっぱり、兄と可愛い弟と、厳ついパパかな。
「お待たせしました。帰りましょう」
本屋から出て少し歩くと、美月くんの口数が減った。
これは、もしかしなくても・・・。
「美月くん、疲れた?抱っこする〜?」
「・・・いいのぉ?」
遠慮なんてしなくていいのに。
寧 ろ抱っこして歩きたい。
片桐は紙袋を持ってはいるが、もう片方の手で美月くんを抱っこして歩くなんて簡単だ。
だから、彼が手を伸ばす前に俺が素早く抱き上げる。
美月くんは身長93cm、体重13kg。
環流 曰く3歳児並み。
俺でも家まで抱っこして行ける。
「しゅうがしゃん」
「なあに〜?」
「ぼくね、ぼくも、おべんきょすゆ!」
来年から小学校だし、嫌でも勉強させられるのに、自発的にするだなんて。
麗彪さんと時任にも見習って欲しい。
・・・やらなくてもそこそこ出来るからって、授業中は寝てるっぽいし。
「偉いね〜。美月くんが麗彪さんと時任にも、勉強教えてあげてね」
「えへへ」
可愛い。
あったかくて、甘い匂いのする天使。
せっかくだからちょっと遠回りして帰ろうかな、と思っていたら、向こうから見覚えのある2人が歩いてくる。
・・・何で来るかな。
「みーつき、どこ行ってたんだ?」
麗彪さん、声をかけながらさり気なく俺から美月くんを奪おうとしてません?
渡しませんよ。
「んね、しゅうがしゃんと、かちゃぎいしゃんと、ほんやしゃんいったのぉ!」
「なんか買ってもらったのか?」
時任が片桐から荷物を受け取る。
このメンバーで護衛となる片桐を手ぶらにしておこうという考えだろう。
「ん、しゅ・・・しゅ?」
「スケッチブック」
「しゅけっちぶっく!」
「あと?」
「いおえんぴちゅ!」
良く言えました。
また、ゆっくり家路に就 こうとしたら・・・。
「んあっ!みたあししやたまっ!たべゆっ!」
おっと、それも思い出しちゃった。
麗彪さんたちが家を出る時に、入れ違いで雪乃兎屋さんが来てたらしい。
それじゃ、急いで帰りましょうか〜。
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