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⭐︎番外編⭐︎道場に行こう
***籠の鳥パラレル***
── 5歳の美月が榊家 に居たら ──
【新名 side】
俺はなぜ、勉強してるんだろう。
高校・・・行く必要あるのか・・・榊家 の家業・・・。
表の仕事で役に立とうとするなら、駿河 みたいに大学まで目指すのはわかる。
でも俺は、たぶん、表には出ない。
もう殺 っちゃってるし。
護衛を兼ねたドライバーは出来るだろうけど、それより片桐 のサポートにした方が使い勝手いいはずだ。
どちらかと言うと俺寄りの時任 は、美容専修高等学校に進むと決めていて、頭を使うのは駿河に任せると言っていた。
麗彪 さんは・・・やらなくても出来る天才だし、将来は榊家 の裏も表も背負 って立つ人だから、涼しい顔で大学まで進むんだろう。
俺は・・・雅彪 さんに、せめて高校は卒業しとけって言われたから・・・。
「・・・集中できないな」
立ち上がり、部屋を出て道場へ向かう。
身体を動かせば、また何も考えず勉強の続きができるかもしれない。
そのまま、何も考えず高校進学してしまえば・・・。
「にーなしゃんっ、ちゅかまえたぁ!」
ぎゅっと、左足にしがみ付かれた感触。
身体をぐっと固め、しがみ付いているお嬢を蹴ったり転ばせたりしないよう、完全に静止した。
「捕まっちゃいました」
可愛い、かわいい、カワイイ・・・。
俺が奪われた、護れなかった、小さな・・・。
「おべんきょ、おあり?あしょぶ?」
「はい、遊びましょう」
ひとまず、お嬢を抱き上げ安全確保。
何をして遊びたいのかな。
「どこいくの?」
「え?ええと・・・道場に行こうと思ってましたが、やめ・・・」
「どーじょー!」
あれ、お嬢は道場に行った事あるのかな?
麗彪さんが連れて行ったとか・・・いや、でも戦闘訓練 は見せられないだろ。
お嬢、絶対恐がるし、心配するだろうし。
・・・まさか、心配して欲しくて連れて行った?
そんな事・・・麗彪さんならやりかねない・・・。
「どーじょーいくぅー!」
「あ、行きたいんですね・・・」
どうしたものかと思っていたら、お嬢に付いていたらしい柳 が口パクで「片付けてくる、ゆっくり来い」と指示をくれた。
道場に先回りして、お嬢が見ても問題ない状態にしておいてくれるらしい。
良かった、じゃあ指示通り遠回りしながら向かおう。
「どーじょー、なにすゆとこ?」
あ、知らないんだ?
じゃあ行った事もないのか。
「え・・・っと、運動する所、です」
運動の方法が様々だけど。
単純に筋トレしてる場合もあるし、素手や武器での戦闘訓練だって運動と言えば運動だ。
まあ、徹底的に急所を狙う訓練ってだけで・・・。
「道場行く前に、わんわん見に行きましょうか」
「あいっ!」
庭に出ると、すぐにドーベルマンたちが駆け寄ってくる。
俺だけの時は呼ばなきゃ来ないのに、お嬢を抱いてるからか。
吠えるとお嬢が驚くから、ぴーぴーと鼻を鳴らし擦り寄ってくる。
俺に抱っこされたまま手を伸ばし、犬たちの鼻を撫でていくお嬢。
・・・おい、あまりベロベロ舐めるな。
「おてて洗ってから、道場行きましょうね」
「あいっ!」
洗面所でお嬢の手を洗い、今度こそ道場へ向かう。
片付けは終わっているだろうか・・・。
「ここ?どーじょー?」
「そうですよ」
道場は敷地内にあり、本邸の裏口から出た先にある。
更衣室とシャワールームも備えていて、なかなかの大きさだ。
入ってみると、柳と何人かがいそいそと危なそうな物を隠している所だった。
「ひろーいっ!」
「広いですね」
靴下を穿 いたままでは滑るので、お嬢の小さな足から脱がせて畳み、ポケットに収める。
足が冷たくなっちゃうかな・・・あまり長居はさせたくない・・・。
「はしゆ!」
「えっ?転んだら危ないので、歩きましょうね?」
どうやら元気が有り余ってるみたいだ。
何か道場 で遊ぶ方法は・・・。
「お嬢、マットの上で遊びませんか?」
柳に言われ、ジョイントマットが敷かれたスペースに案内される。
こんなのいつの間に・・・お嬢が来る事を想定して用意してたのか?
ジョイントマットの上には、ピンクの子供用縄跳び、トランポリン、体操マットが置いてある。
早速お嬢が興味を持ったのは意外にも・・・。
「こえ、どーすゆの?」
「この上で転がって遊ぶんですよ。ちょっとやってみますね」
柳が手本を見せるらしい。
危なくない様に少し離れると、前転、倒立、開脚前転、後転、開脚後転からの倒立・・・。
「しゅごい!しゅごいいっ!」
ぱちぱちと拍手するお嬢。
・・・俺だってそれくらい出来るのに。
「ぼくもすゆ!」
「あ、その前に準備運動しましょう」
やる気満々のお嬢と一緒に準備運動をしてから、いざマット運動に挑む。
まずは前転の練習から・・・なんだけど、見ててハラハラする・・・怪我なんてしたらどうしよう・・・。
「あいっ!」
見事にころりと前転して見せたお嬢に、一同スタンディングオベーション。
さすがお嬢!
すごい、偉い、可愛いっ!
「・・・あえ?」
続いて開脚前転をしようと、ころりと転がりながら脚を開いたまでは良かったんだけど、身体が柔らか過ぎたのか立ち上がれず、ぺたんと全開脚してしまった。
いい、お嬢はそれでいい、可愛い!!
気を取り直し、立ち上がったお嬢。
あ、まさか・・・。
「とおっ!」
「「「「「「っ!?」」」」」」
いきなり倒立をしようとしたお嬢に、見守っていた全員が手を伸ばした。
咄嗟の事で声も出ない。
しかし、お嬢はマットに両手を突いてぴょんっと両足を跳ねさせただけで、すぐマットの上に四つん這いになった。
あぁ・・・っぶねぇー・・・寿命縮んだー・・・。
「お、お嬢、倒立・・・手で立つのは大人にしか出来ないので、お嬢は転がるのだけにしましょう。ね?」
「・・・あぃ」
お嬢が聞き分けのいい子で良かった・・・。
簡単なマット運動の次はトランポリン。
どうやらお嬢は運動神経が良い訳ではなさそうだったので、俺と手を繋いだままぴょんぴょんしてもらった。
トランポリンを気に入って暫 く跳ねていたけど、縄跳びの出番を待たずしてお嬢の電池が切れる。
道場 でお嬢を見守っていた中に撮影係がいたので、動画の共有を約束してから、くったりした天使を抱いて本邸へと戻った。
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