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⭐︎番外編⭐︎洗車に行こう
***籠の鳥パラレル***
── 5歳の美月が榊家 に居たら ──
【片桐 side】
榊家 の中学生たちを学校へ送り、車をガレージに入れる前にふと思い立った。
洗車用スペースに停め、エンジンを切る。
今日は雅彪 さんと環流 が休みで家にいる。
美月 くんは2人が見ているだろうから、洗車でもしておこうと・・・。
「かちゃぎいしゃ!おかえなしゃーい!」
「・・・ただいま帰りました」
元気に美月くん登場。
何故、出てきちゃったんですか?
この時間は雅彪さんの膝上だと思ったんですが。
それにしても、その格好は・・・。
「可愛いだろう?さっき届いたんだ」
美月くんに続いて、雅彪さんと環流も出て来た。
2人まで・・・その格好・・・。
「はい。背中の刺繍も見事ですね」
美月くんや雅彪さん、環流が着ているのは、ベビーピンクのつなぎ。
胸元には濃いピンクで「美月組」の刺繍、背中には美しい満月と兎が刺繍されている。
・・・いや、組と刺繍するのは如何 かと。
「よっちゃんたちのも作ったんだ。お前のもあるぞ」
「ウチは美月組になったんですね」
「そうだな・・・思い切って変えちまうか・・・」
やめ・・・いや、それも良いかもしれないと思ってしまうのは、美月くんが榊家 で最も尊い存在だからだ。
それにしても、3人がベビーピンク という事は、麗彪 さんたちや私のもベビーピンク なんでしょうね・・・。
「かちゃぎいしゃん、くゆま、どおしてここなのぉ?」
「あ、洗車をしようと思ったんです」
「せんしゃ・・・?」
「車を洗って綺麗にするんですよ」
私の言葉を聞いて、黙って見守っていた環流がはっとした顔をした。
「あ・・・っと、美月ちゃん、お庭でドーベルマン たちにもお洋服、見せてあげよう?ね?」
「ぼくもくゆまありゃうーっ!」
・・・しまった。
まさか美月くんが洗車に興味を持つとは。
「環流、やらせてやれよ。水被 んない様に注意すりゃあいいだろ」
「・・・まあ、そうですね」
環流は美月くんの体調管理を任されているため、誰よりも過保護だ。
雅彪さんも過保護ではあるが、美月くんが興味を示したり、新しい事をやりたがると、出来るだけやらせてあげようとする。
まあ、危険が伴う様な事は絶対にさせないが。
「どおやうの?」
「先ずは車体を水洗いします」
ジャケットを脱ぎ、袖を捲 ってから洗車用ホースを手に取る。
美月くんが濡れたらいけないので、水洗いは見ているだけにしてもらおう。
お揃いのベビーピンクを着た3人が、少し離れて地面に座った。
・・・お尻のとこ汚れてしまいますよ?
ホースの先に取り付けられたノズルの散水パターンを洗車にして、車体に水をかける。
この放水作業に、目を輝かせた子が・・・。
「しゅごいっ!かっこいっ!ぼくもぉっ!」
やりたいんですね。
まあ、ノズルを持っている分には濡れない、か・・・。
「やってみますか?」
「あいっ!」
美月くんを抱っこし、ノズルを持たせ、放水レバーを握る。
勢いよく吹き出る水に、無邪気に喜ぶ美月くん。
「ふおおぉ・・・っ!」
楽しそうで何よりです。
・・・今度、消防署の見学にでも連れて行ってみようか・・・。
「みっちゃん、上手だなあ」
「えへへぇ」
「頑張れー」
「あいっ!」
父兄の応援を受けながら、車体全体に満遍なく水をかけている。
結構几帳面かもしれない。
全体をしっかり流したら、次は泡洗車だ。
水を止めて美月くんを下ろし、洗車用バケツにカーシャンプーを入れる。
そこにノズルで水を入れ泡立て、ボディ用のスポンジを浸けたら、ルーフから洗っていくんだけれど・・・。
「・・・やりたい、ですよね?」
「あいっ!」
せっかくなので父兄にも参加してもらいましょうか。
美月くんの袖を捲り、4人でスポンジを持って、私と雅彪さんはルーフから、美月くんと環流はフロントから洗っていく。
洗車している雅彪さんに気付き、藤堂 が慌てて止めようとしたが、美月くんと楽しそうにしているのを見て、黙って下がっていった。
私だって美月くんがやりたがらなければ、こんな事させませんよ・・・。
「あわ!もこもこね!」
「そうだねぇ・・・あ、舐めちゃだめだよ!」
「みっちゃん、これは身体洗うのと同じ泡だから、食べられないぞ」
「・・・あぃ」
残念そうだ。
・・・午前のおやつに生クリームがのってるといいけど。
車体を洗い終え、スポンジを変えてタイヤとホイールも洗い、手に付いた泡を流してから再びホースを持つ。
もちろん、美月くんが。
「発射!」
「はっしゃーっ!」
今度は雅彪さんが美月くんを抱っこして、車体の泡を流していく。
美月くんは、まるで理屈がわかっているかの様に、ルーフから水をかけ上から下へと泡を押し流していった。
榊家 に来た時は言葉の数も少なく、よく口にしたのは「はい」と「ごめんなさい」と「やります」くらい。
小さな手で、一生懸命大人を手伝おうとする、まるで奴隷の様に扱われていたのだとわかる姿だった。
こんなに幼いのに、賢く成らざるを得なかったんだろう。
だから・・・。
「ぶっ!?」
「うぎゃっ!?」
雅彪さんが美月くんの手元を操作して、私と環流に水をかけた。
こうやってたまに、雅彪さんはわざと美月くんに悪戯 や失敗をさせる。
これが、雅彪さんのみでした事ならば、怒る。
しかし、美月くんが関わっているからには・・・。
「ご、ごめなしゃ・・・」
「はは、やられちゃいましたね」
「あっは、凄い勢いだぁ」
我々は笑って赦す・・・どころか喜んでみせる。
美月くんは謝らなくていいんですよ。
君は何をしたって、怒られたり傷付けられたりしない。
榊家 はそういう場所なのだと、美月くんがちゃんと覚えてくれる様に。
君のパパは、それを狙っているんだと思います。
「あっはっはっ!これぐらいも避けられないとは、まだまだだなお前たち!」
「ぱぱあっ、だめえっ!」
・・・ちょっと違ったかもしれません。
雅彪 は、反面教師にした方がいいかもしれない・・・。
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