252 / 300

想像を超える惨状

麗彪(よしとら)side】 こんな時に限って、実家を頼れないのは誤算だった。 親父によれば、榊家(さかきけ)の近くを警察(サツ)がうろついているらしく、美月(みつき)の存在を知られるのは良くないだろうとの事。 まあ、ひと月もしないうちに引き上げるだろうけど。 そんな事より美月だ。 俺の嫁は独りで寝られない子なのに、どう頑張っても朝帰りになる案件。 寝かし付け当番を付けたくても手が足りない状況で、やむ無く美月を独りで留守番させる事になった。 様子を確認したくても、見守りカメラを確認する暇さえない。 「美月、寝られたかな・・・」 帰りの車に乗り込み、スマホで見守りカメラを確認する。 ・・・ん? 「あー・・・時任(おかん)」 「どうしました?美月、ちゃんと寝てましたか?」 運転中の時任(ときとう)に声をかける。 いや、それがな・・・。 「リビングのソファに座ってDVD観てる。もしかしたら徹夜したのかも・・・」 「え?・・・そうですか」 まあ、その可能性も考えてはいたが、それより・・・。 「帰っても、叱らないでやってくれ」 「別に叱りませんよ。寝られなかったのは仕方ないですし・・・」 「そっちじゃなくてな・・・その・・・」 美月さん、寝られなかったからなのか、寂しかったからなのか、持ってる玩具(おもちゃ)(ほとん)どをリビングにぶち撒けていらっしゃる。 あの惨状を目の当たりにして、時任(おかん)が冷静でいられるだろうか・・・。 「なあ、時任(おかん)・・・」 「なんですか?」 「何を見ても、怒らないって約束してくれ」 「・・・・・・わかりました」 なんとなく勘付いてくれたか? たぶん、お前の想像を超える惨状が待ってるぞ? 本当に、叱らないでやってくれよ・・・? 「ただいま・・・美月?」 玄関まで迎えに来てくれない。 機嫌が悪いのか・・・。 「おっ、おかえりなさいっ!まって、まって!あのねっ、まってぇ!」 リビングから美月の慌てふためく声がする。 大丈夫だよ、確認済みだから。 「美月・・・」 「あ、う、ごめ、ごめんなさ、これ、えっと・・・」 足の踏み場もないとはこの事か。 美月自身も、俺を迎えに玄関へ向かうため、玩具を拾いながら道を作ってるくらいだ。 「麗彪さん、これの事ですか」 「これの事です。怒らないで」 「・・・怒りませんよ。美月が泣いてないならそれでいいです」 俺や駿河(するが)がこんな散らかし方したら2時間は説教する癖に、美月には甘いんだな。 まあ、そうだよな。 「謝らなくていいって。おいで美月、ずっと起きてたのか?眠れなかった?」 手にした玩具をラグの上に置かせて、抱き上げる。 目が少し赤いが、泣いたんじゃなくて寝てないからっぽいな。 「ん・・・いろいろね、してたら、ねるのわすれて・・・たの・・・」 「そっか。泣いちゃった?」 「んーん、ないて・・・なぃ・・・」 俺が抱き上げた途端、うとうとし始める美月。 不在中はリビングにずっと居たみたいだし、どう過ごしてたかは後で見守りカメラの録画を確認すればいいか。 「片付けとくんで、美月と寝てきてください」 「お前も少し寝れば・・・」 「このままにしておけません」 「・・・あ、はい、すみません」 リビングは時任(おかん)に任せ、既に可愛い寝息をたてている天使を連れて、俺は寝室へと向かった。

ともだちにシェアしよう!