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想像を超える惨状
【麗彪 side】
こんな時に限って、実家を頼れないのは誤算だった。
親父によれば、榊家 の近くを警察 がうろついているらしく、美月 の存在を知られるのは良くないだろうとの事。
まあ、ひと月もしないうちに引き上げるだろうけど。
そんな事より美月だ。
俺の嫁は独りで寝られない子なのに、どう頑張っても朝帰りになる案件。
寝かし付け当番を付けたくても手が足りない状況で、やむ無く美月を独りで留守番させる事になった。
様子を確認したくても、見守りカメラを確認する暇さえない。
「美月、寝られたかな・・・」
帰りの車に乗り込み、スマホで見守りカメラを確認する。
・・・ん?
「あー・・・時任 」
「どうしました?美月、ちゃんと寝てましたか?」
運転中の時任 に声をかける。
いや、それがな・・・。
「リビングのソファに座ってDVD観てる。もしかしたら徹夜したのかも・・・」
「え?・・・そうですか」
まあ、その可能性も考えてはいたが、それより・・・。
「帰っても、叱らないでやってくれ」
「別に叱りませんよ。寝られなかったのは仕方ないですし・・・」
「そっちじゃなくてな・・・その・・・」
美月さん、寝られなかったからなのか、寂しかったからなのか、持ってる玩具 の殆 どをリビングにぶち撒けていらっしゃる。
あの惨状を目の当たりにして、時任 が冷静でいられるだろうか・・・。
「なあ、時任 ・・・」
「なんですか?」
「何を見ても、怒らないって約束してくれ」
「・・・・・・わかりました」
なんとなく勘付いてくれたか?
たぶん、お前の想像を超える惨状が待ってるぞ?
本当に、叱らないでやってくれよ・・・?
「ただいま・・・美月?」
玄関まで迎えに来てくれない。
機嫌が悪いのか・・・。
「おっ、おかえりなさいっ!まって、まって!あのねっ、まってぇ!」
リビングから美月の慌てふためく声がする。
大丈夫だよ、確認済みだから。
「美月・・・」
「あ、う、ごめ、ごめんなさ、これ、えっと・・・」
足の踏み場もないとはこの事か。
美月自身も、俺を迎えに玄関へ向かうため、玩具を拾いながら道を作ってるくらいだ。
「麗彪さん、これの事ですか」
「これの事です。怒らないで」
「・・・怒りませんよ。美月が泣いてないならそれでいいです」
俺や駿河 がこんな散らかし方したら2時間は説教する癖に、美月には甘いんだな。
まあ、そうだよな。
「謝らなくていいって。おいで美月、ずっと起きてたのか?眠れなかった?」
手にした玩具をラグの上に置かせて、抱き上げる。
目が少し赤いが、泣いたんじゃなくて寝てないからっぽいな。
「ん・・・いろいろね、してたら、ねるのわすれて・・・たの・・・」
「そっか。泣いちゃった?」
「んーん、ないて・・・なぃ・・・」
俺が抱き上げた途端、うとうとし始める美月。
不在中はリビングにずっと居たみたいだし、どう過ごしてたかは後で見守りカメラの録画を確認すればいいか。
「片付けとくんで、美月と寝てきてください」
「お前も少し寝れば・・・」
「このままにしておけません」
「・・・あ、はい、すみません」
リビングは時任 に任せ、既に可愛い寝息をたてている天使を連れて、俺は寝室へと向かった。
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