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しょっぱい

美月(みつき)side】 海。 ぼくはついに、その味を知る。 「麗彪(よしとら)さん、はやくっ!」 「わかったから走るなって。砂に足取られて転ぶぞ。そしたらまた捻挫する」 「しないもんーっ!」 お泊まりするとこに着いて、車から降りたらすぐ、麗彪さんと手を繋いだ。 みんな荷物出したりしてるのに、ぼくと麗彪さんだけ、目の前の海に歩いてく。 「あ、やべ、美月の麦わら帽子忘れた」 「車に乗ってたよ?」 「今(かぶ)せときたかったのに」 もお、いいからはやく歩いてよぉ。 海だよ、波だよ、行ったり来たりしてるんだよ! 「あ、スプーン・・・」 「本気の味見かよ。指にちょっと付けて舐めるだけにしなさい」 「そんなちょっとじゃ味わかんないよ?」 「わかる。大丈夫だ」 波がきてる手前まで行って、行ったり来たりしてるのを見る。 ・・・どの波が美味しいかな。 「これ!」 「ちょっとだぞ?ぺろってするだけだからな?」 ゆっくり来た波にちょんって触って、その指をぺろって・・・。 「ん"っ!?」 「美味しくないだろ?」 「ん"ん"・・・」 しょっぱい。 ぜんぜん美味しくない。 これ、飲めない。 「ぺってしろ」 「んん?」 ぺ? どこに? 「お嬢!お水持ってきました。うがいして、こっちの紙コップにぺってしてください」 「用意がいいな」 新名(にいな)さんが、お水の入ったコップと、空っぽの紙コップを持って来てくれた。 お水を口にいれて、ぐちゅぐちゅってして、紙コップにぺってする。 「何でわざわざ紙コップに?取っておく気か?」 「お嬢の性格からいって、その辺にぺって出来ないと思いまして」 「その紙コップよこせ」 「嫌です」 麗彪さんと新名さんが紙コップの取り合いしてる。 ぼく、自分で捨てるから、返して欲しいな・・・。 「残りのお水、飲んでいい?」 「いいですよ。あ、ジュースもありますよ?」 「暑いし、1回中入ろう」 お水をちょっと飲んでたら、麗彪さんが中に入ろうって。 まだ、海来たばっかだよ? もっと、行ったり来たり、見てたい。 「靴脱いでいい?」 「入んのか?」 「では俺はこの紙コップを保管・・・いえ、適切に処理して参ります」 「あっ、おい待て!」 新名さんが紙コップと、お水が入ってたコップ持って行っちゃった。 麗彪さんはぼくと手、繋いでるから追いかけられない。 紙コップ、ちゃんと捨ててくれるんだよね? 「クソ狐め・・・美月、靴脱ぐぞ」 「はぁい!」 2人で靴を脱いで、波が届かないとこに置いて、海に入る。 気持ちい・・・来た波が行っちゃう時、なんかぞわわーってして楽しい。 「海で泳ぐ?」 「いや、プールあるから泳ぐのはそっちな。海は見るだけ」 「はぁい!」 前は、沖に連れてかれちゃうかもって、恐かったけど、今はもお恐くない。 麗彪さんといっしょだもん、ぼく、どんどん恐くなくなってくよ。

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