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優しい笑顔

美月(みつき)side】 「みぃーつっきちゃぁーん!」 「(あや)ちゃん?電話、終わったの?」 片桐(かたぎり)さんと新名(にいな)さんと3人で、公園にお散歩に来た。 麗彪(よしとら)さんと綾ちゃんは電話するからお留守番してるって言ってたのに、綾ちゃんだけお散歩に付いて来たみたい。 「運動会に出る奴らなぁ、すぐ東京(こっち)来てくれる()うとったぁ。楽しみやんなぁ」 「うんっ!」 運動会って、絵本で動物さんたちがしてるの読んだ事ある。 紅組と白組に分かれて、綱引きとか、リレーとかするの。 ぼくもやってみたいって思うけど、運動音痴だし・・・。 麗彪さんたちの事、応援するんだ。 綾ちゃんたちも、応援するからね。 「・・・ええ、こっちに来てます・・・わかりました」 あれ、片桐さん、誰かと電話してる? すぐ切っちゃったけど、大丈夫かな・・・。 「なぁなぁ、美月ちゃん」 「なあに?」 「俺のお嫁さんになってくれへん?」 「・・・え?」 綾ちゃんの、お嫁さん? え、どおして、だって・・・。 「ぼく、麗彪さんのお嫁さんにしてもらったから、綾ちゃんのお嫁さんはなれないよ?」 「離婚したらええねん。んで、俺と結婚しよ?」 「りこ・・・」 「綾さん!お嬢に変な事吹き込まないでください!」 「榊家(うち)()り合うつもりですか?」 新名さんが手を繋いだまま、ぼくを後ろに隠すよおに立って、片桐さんは綾ちゃんの前に立った。 変な事って、なに? りこんって言ってたけど、その事? りこんって、なに? 「落ち着きぃや。美月ちゃんに、俺が本気やって知って欲しかってん。美月ちゃん俺なぁ、ほんま美月ちゃんの事好きやねん。美月ちゃんのためならどぉんな魔法かて使(つこ)たる。よっちゃんより、もっと自由に楽しく暮らさせたる。ほんまやで」 綾ちゃんが、いつもみたいな明るい声じゃなくて、あったかくて優しい声で言った。 いつもと少し違う、優しい笑顔で。 あれ、見た事ある、その優しい笑顔・・・。 「美月っ!!」 後ろから、すごく強い力で抱きしめられた。 それだけで、声を聞かなくてもわかる。 大好きな・・・。 「麗彪さん」 「大丈夫か?何かされなかったか?」 背中から、麗彪さんのドキドキが伝わってきた。 走って来たの? 「大丈夫だよ。そんなに慌ててどおしたの?」 「美月が心配で・・・っはぁー・・・綾、てめぇ」 時任(ときとう)さんも来てて、片桐さんと並んで綾ちゃんの前に立ってる。 どおして? だめだよ、ケンカしないで? 仲良しでしょ? 「俺の気持ちは伝えたわ。ほな、運動会でまた会おな、美月ちゃん」 綾ちゃんが、いつもの明るい声と笑顔に戻って言って、手を振りながら歩いて行った。 運動会で・・・って、それまでどこか行っちゃうのかな。 「美月、あいつに何言われた?」 「え・・・ぇと・・・好きって、言われた・・・」 「(あいつ)より俺の方がずっとずっと美月の事が好きだ!愛してる!」 麗彪さんが、ぼくの事向かい合わせにして、ぎゅうって抱きしめてくれる。 あ、そおだ、綾ちゃんのあの優しい笑顔って・・・。 「うん、ぼくも、麗彪さんの事、愛してる」 麗彪さんがぼくに「愛してる」って言いながらする、優しい笑顔と同じだった。

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