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意気地のない男
【麗彪 side】
公園から美月 とマンションに帰ると、綾 は既に出て行った後だった。
綾から連絡を受けた駿河 が、エントランスまでキャリーケースを持っていってやったらしい。
運動会で決着を付ける事になっているから、大阪には帰っていないんだろうが・・・まあいいか。
「麗彪さん」
「・・・ん?」
「ちょっと、苦しい」
「あ、すまん」
無意識に、膝上に座らせた美月をきつく抱きしめ過ぎていた。
力を緩めると、振り返ってにこっと笑う。
可愛い。
「あのさ・・・」
「なあに?」
「いや・・・おやつはお預けになってた苺シャーベットだぞ」
「わぁい!」
公園で綾に言われた事、どう思ってんのかな。
あいつから、好きって言われて、美月はどう思った?
好き以外、なにか言われたか?
俺といるより美月にとっていい条件、出されたりしたか?
聞きたいけど、聞くのが恐い。
美月は俺の事が1番好きで、愛してるって言ってくれてる。
でも、俺以外からの真っ直ぐな好意を向けられたのは、たぶん初めてだ。
綾にもかなり懐いてるし、もしかしたら・・・と考えてしまう。
「美月・・・」
「なあに?」
「愛してる・・・」
俺はこんなに意気地のない男だったか。
自分の気持ちを一方的に何度も伝えて、縋るしか出来ないなんて。
いつも格好いいって、美月に言ってもらってる榊 麗彪はどこいっちまったんだ・・・。
「みつ・・・んっ・・・?」
唇に、甘く、やわらかい感触。
すぐ近くで微笑む、俺の天使。
「ぼくも愛してる。麗彪さんはぼくの特別」
ああ・・・本当に美月の事が好きだ。
美月さえ居れば何もいらない。
美月のためならなんだって出来る。
幽霊だろうが悪魔だろうが蟒蛇 だろうが、恐いモノなんてなにもない。
美月が俺を愛してると言ってくれるだけで。
「・・・っ、運動会、必ず勝つから楽しみにしてろよ」
「うんっ!」
この笑顔と、優しさと、温もりを護り通す。
美月の見ている前で、俺がこの世界で1番美月を愛してるって事を証明してやる。
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