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じしょと赤い車

美月(みつき)side】 麗彪(よしとら)さんが帰ってきて、ドアがあいて、すぐぎゅーってしてくれて、ぼくはそのまま麗彪さんにだっこしてもらってる。 泣いちゃってるの、麗彪さんにわからないよおにしたくて、ぼくも麗彪さんにぎゅーってくっついて、かおかくしてる・・・。 「美月、ただいま」 「・・・ぅ・・・ふぇ・・・ぉか・・・ぇ・・・なさ・・・っ」 麗彪さんの声。 やさしくて、大好きな声。 ぼくの耳のすぐよこできこえる。 もっと、もっと声、ききたい・・・。 「・・・ょしと・・・ぁさん・・・ぼく・・・ちゃんと・・・ぉるすば・・・っ、して・・・っ」 「ああ、偉かったな。寝ないで待っててくれて、ありがとな」 「・・・っ、うんっ!」 麗彪さん大好き・・・大好き、だいすきっ! ずっとぎゅーってしててほしい。 もお、どこにも行かないでほしい。 でも、駿河(するが)さんが、だいじなおしごとって言ってたから、もお行かないでなんて、言っちゃだめだから・・・。 「・・・ぁ、ね・・・またおしごとに行っても、ぁの・・・また、少しでいいから、は・・・はやく、帰ってきて・・・」 「もう仕事なんて行かねえ」 「麗彪さん、それじゃただのダメな大人です。美月くんの方がずっと立派ですよ」 ぼくのほうが、ずっと、りっぱ? りっぱ・・・って、なんだろ・・・。 なんか、りっぱって、かっこいいかんじ、する! 「ぼく、りっぱ、ですか?」 「ああ、美月は立派だ。駿河よりな」 「ええ、確実に麗彪さんより立派です」 りっぱ・・・あとで言葉のいみ、しらべなきゃ。 時任(ときとう)さんが、じしょ、買ってくれたから、わからない言葉があったら、あとでしらべるよおにしてる。 読めないかんじもあるから、麗彪さんに手伝ってもらいながらだけど・・・。 じしょ、おもしろい。 たくさん言葉が書いてあって、じしょをぜんぶ読めるよおになりたいから、かんじもいっぱい勉強しなきゃ。 「麗彪さん、立派になりたかったら美月を寝かせてきてくださいよ。一緒に寝ないでくださいね、仕事あるんで」 「ち・・・。時任(ときとう)は立派なオカンだな」 「じゃあそのオカンが美月を寝かし付けてきましょうか」 「駄目だ。ほら美月、俺とベッドに行こうな」 麗彪さんが、ぼくをだっこしてベッドにつれていってくれた。 時任さんのこと、おかんって言ってたけど、おかんって、なんだろ。 おかんも明日じしょでしらべなきゃ。 麗彪さんにだっこされてると、だんだんねむくなってきちゃう・・・。 せっかく麗彪さんが帰ってきてくれたのに・・・。 「・・・ん、まだ、ねむた・・・なぃ・・・」 「そうか?ああそうだ、これ、美月が気に入ると思って持ってきた」 「ぁあっ!くるまっ!かっこいいっ!」 麗彪さんが、赤くてピカピカな車をもってる! すごい、かっこいい・・・! りょう手でもたせてもらったら、重くて、ほんものの車がそのまま小さくなったみたいだった。 「すごい、あ、ドアもあく!」 「ライトも点くし、このリモコンで走るぞ」 「走るのっ?」 「こーらー寝なさーい!麗彪さん、美月くんを興奮させてどうするんですか。寝かせてあげてくださいよ」 あ、ぼくがおっきな声でさわいじゃったから、駿河さんがきておこられちゃった・・・。 そおだ、麗彪さんは、まだおしごとあるって、時任さんが言ってたんだ・・・。 「ごめんなさぃ・・・」 「美月くんは何にも悪くないですよ~悪いのは自分勝手な大人の方ですからね~ね、麗彪さん」 「悪かった。これは明日一緒に遊ぼうな」 麗彪さんが、赤い車をベッドのよこのテーブルにおいた。 ・・・あした・・・。 はやく明日にならないかな・・・。 「おやすみ、美月」 「おやすみ・・・なさ・・・ぃ・・・」 麗彪さんになでてもらいながら、車のゆめが見れたらいいなって思いながら、目をつぶった。 あと、そのゆめにも、麗彪さんがいてくれたら、いいな・・・。

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