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ぼくのぜんぶ
【美月 side】
「麗彪 さん、起きて」
「・・・んー・・・・・・」
起きたら、麗彪さんがぎゅってしてくれてた。
あったかい・・・。
でも朝だから、起きなきゃって思って、麗彪さんに起きてって言ったんだけど・・・。
麗彪さん、起きてくれない。
麗彪さんが起きなきゃ、ぎゅってしてもらってるぼくも、起きれない。
「ねぇ、起きて」
「・・・んー・・・ぁと・・・ごふん・・・」
あと、5分。
じゃあ、あと5分だけ・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
「麗彪さん、5分になったよ、起きて」
「・・・んー・・・・・・もー・・・ごふん・・・」
また、5分・・・。
麗彪さん、そんなにねむいの?
それとも、ねむくなる、びょうき?
どおしよ、麗彪さんがびょうきになっちゃったらどおしよ・・・。
「ねえ、麗彪さん、起きてっ、びょうきになっちゃやだっ」
「・・・ぅん?病気?美月、具合悪いのか?」
麗彪さんが起きて、ぼくのおでこに手をあてた。
びょうきかもしれないの、ぼくじゃなくて麗彪さんだよ?
「麗彪さん、びょうきじゃない?ねむいびょうき?」
「ん?・・・ああ、違う、病気じゃない。美月の抱き心地が良すぎてずっとこのまま寝ていたいと思っただけだ」
びょうきじゃない、よかったぁ・・・。
でも、びょうきじゃなかったら、もお起きてもだいじょおぶだよね?
「あのね、ぼく、もお起きても・・・いい?」
「腹減ったか?」
「ん、えと、ちがくて・・・あの、ね・・・あれ・・・」
赤い車。
ベッドのよこのテーブルの上に、きのう麗彪さんが見せてくれたぴかぴかの赤い車がある。
麗彪さん、明日いっしょにあそぼうなって、言ったから。
赤い車、走るって、言ったから・・・。
「遊ぶか?」
「あそぶっ!」
ベッドにすわった麗彪さんのひざの上にすわって、赤い車をうごかすリモコンをもたせてもらった。
麗彪さんにおしえてもらいながら、赤い車をうごかす。
「すごいっ!ほんものみたいっ!かっこいいっ!」
「はは、こんなに可愛くても、やっぱ男の子だな」
麗彪さんのひざの上で、かっこいい車であそべて、うれしくて・・・。
だから、ぼく、やっと気がついた。
「麗彪さん、ねむいのに、起こしてごめんなさい・・・」
麗彪さん、きのうの夜もおしごとしてたのに。
ぼく、はやく赤い車であそびたくて、麗彪さんはもっとねたいのに、起きてってなんかいも言っちゃった・・・。
「謝らなくていい。車で遊ぶの楽しみにしてたもんな。美月が喜んでくれるなら俺は嬉しいよ」
うれしい・・・?
ねむたいのに起こされたら、きっといやなはずなのに。
麗彪さんをいやなきもちにさせるって、わかってて起こしちゃったのに。
いけないことなのに。
麗彪さんがうれしいって言ってくれて、ぼくもうれしくて、なみだが出た。
「美月、泣かなくていいんだぞ」
麗彪さんが、やさしくわらいながら、ぼくの頭をなでてくれる。
麗彪さんは、やさしくて、かっこよくて、あったかくて・・・。
「麗彪さん、だいすき・・・っ」
麗彪さんのほうをむいて、麗彪さんにぎゅってだきつく。
ぼく、麗彪さんが大好きで、大好きすぎて、どおしていいかわからない。
わからなくて、くるしくて、ぎゅってだきつくしかできなくて。
麗彪さんも、ぎゅってしてくれると、ちょっとだけくるしいのがなくなったから。
「もっと・・・もっと、ぎゅーってして?」
「これ以上強くしたら折れる」
「おれてもいいからっ、ぼくのこと、もっとぎゅーってして・・・がぶってしてっ」
ぼく、麗彪さんになら、食べられてもいい。
ぼくのぜんぶ、麗彪さんのものにしてほしい。
麗彪さんがもっとぎゅーってしてくれて、またくるしいのがなくなってきたけど、なんだかまだたりなくて。
もっと、って言おうとしたら、麗彪さんがぼくの口にがぶってした。
これって、食べられちゃうのかな。
それとも、ちかいのキス・・・かな・・・。
「ん・・・ぅ・・・っ」
りょうほうがいいなって思いながら、もったままだった赤い車のリモコンから手をはなした。
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