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プリンとポンパドール
【麗彪 side】
片桐 がマンションに来たのは、俺が親父の所から持ってきた赤い車を探しに来たからだった。
「この俺様から物を盗んだ野郎を調べろ」と言われたそうだ。
ただ、片桐も親父も、俺が持って行ったんだろうとは予想していたらしい。
俺じゃなかったら面白い事になっただろうが、悪かったなつまらん結果で。
で、そこに美月 がいて驚いた片桐。
俺のシャツを着て怯える姿に、俺が拐って来たのだとしたら事故を装い逃がしてやらねばと思ったらしい。
・・・まあ、気持ちは解るが、やめろ。
「そうか、美月ちゃんは・・・美月くんだったんですか・・・すみません、女の子だとばかり・・・」
「髪、だいぶ伸びましたからね~。まだ切らせてくれないんですよ、麗彪さんの趣味で」
駿河 が美月の髪をとかしながら言った。
いいだろ、似合うんだから。
「おい、勝手に美月の髪をとかすな。美月、髪切りたいか?」
「麗彪さんが好きな長さがいいです」
・・・俺の好きにしていい、と。
「じゃあもう少し伸ばして」
「ふふ、わかりました」
俺の天使が俺を甘やかすんだが。
すげえ可愛い笑顔で甘やかしてくるんだが。
俺が美月を抱き上げ髪にキスしていると、そろそろお暇 しますと言って片桐が立ち上がった。
「雅彪 さんには私から話しておきます。では」
「ぁ・・・かたぎりさん、おやつ食べないんですか?時任 さんがつくってくれた、プリンですよ・・・?」
優しい美月は、親父の手先である片桐にもおやつを食わせようとする。
きっと、片桐がおやつを食って行けば、美月は喜ぶだろう。
「食ってけ片桐」
「いただきます」
さすが片桐、察しがいいな。
会って間もない片桐まで手懐けるとは・・・美月は天使であり、猛獣使いでもあるのかもしれない。
「でも麗彪さん、美月くんの前髪、少し切った方がいいですよ。目に入ると良くないですからね~」
駿河の言う通り、プリンを見詰める美月のキラキラした大きな瞳に、前髪が若干かかっている。
すかさず時任 が、何処に隠し持っていたのかピンクのヘアピンを出し、美月の前髪を軽くねじって留めた。
・・・可愛いが、目に入るのは良くないな。
「時任、おやつ食ったら美月の前髪切ってくれ」
「はい」
時任は何故か美容師の資格を持っている。
いつの間に取得したのか謎だが、俺や駿河の髪も時任が切っている。
組 のお抱え美容師もいるんだが、子どもの頃から一緒にいる時任の方が信用できるしな。
美月が旨そうにプリンを食べるのを見ながら、その可愛いポンパドール姿を写真に撮るのは忘れなかった。
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